震災後、津波に飲まれた沿岸部を歩いた。
町は姿を消し、目に入るのはガレキと、かろうじて倒壊を免れたものの鉄骨だけを残し、無残な姿に変わり果てたビルだった。
潮の臭いが鼻を突く。干からびた魚が、道に落ちているのを見つけた。海水が町を飲み込んだ生々しい爪あとだ。
九死に一生を得た人々は、それぞれが、津波が押し寄せた状況を熱心に語ってくれる。
「一気に口元まで水が来た。そのまま流されそうになり、必死の思いで鉄骨につかまって耐えしのいだ」
「観念して両手を合わせた。次の瞬間、年老いたお袋が背中にしがみついてきた。波に飲まれた後は覚えていない。気がついたら波が引き、膝まで水に浸かった自分がいた」
想像を絶するとは、まさにこのことだ。これが夢物語であったら、どんなによいだろう。だが、惨事は現実に起きてしまった。
エホバ神はかつて、箱舟で生き残ったノアに対し、今後大洪水は決して起こさないことを約束し、その証として空に虹をかけたという。
いまの被災地にも虹が必要だ。それは恐らく、「希望」という言葉だろう。(写真・文=オルタナ副編集長 形山 昌由)