3月24日、東洋経済オンラインが「WHOが、日本の水道水に関する放射性物質の規制基準は国際基準の10倍厳しいと記載」と配信した。原子力安全委員会が飲料水の摂取制限を1リットル中300ベクレルと設定したことを受けてのニュースだった。
これだけ読むと、日本の暫定基準が世界保健機関(WHO)基準の10倍厳しいと読めるが、本当にそうなのだろうか。この記事の情報源は確かにWHOの3月22日発表資料だが、内容は、日本の基準が「国際的に合意された『実用介入レベル』より一桁低い」というものだ。
では「実用介入レベル」とは何か。そのソースにあたると、原子力推進機関(IAEA)が核や放射性物質を含む緊急時のために策定し、WHOも支持した基準だと分かった。さらに、本家WHOのウェブで探すと、「“Can I drink the tap water in Japan?”(日本で水道水は飲めますか?)」というQ&Aで、WHOと日本とIAEA の基準の比較表が出ていた(図表参照)。
WHOの本来の推奨値は1リットル中10ベクレルと書かれている。こちらを基準にすれば、今回の日本の基準値300ベクレルは30倍甘い。おまけにIAEAの3000ベクレルという基準は「適用不可。緊急時の早期段階で行動する時のみ使うべき最大レベル」とある。1年間飲み続けてはいけないレベルであるというわけだ。そのことには触れずに「国際基準」の10倍厳しいと報じれば誤解を呼ぶ。
一方、「厚労省は3月17日に水道水基準を30倍も緩和していた」と批判するのは環境総合研究所の青山貞一所長だ。日本はWHO飲料水水質ガイドラインを遵守していたのだから、10ベクレルから考えれば30倍の緩和だというわけだ。
これについて厚生労働省水道課は、「WHOの基準は平常時の基準です」と苦しい弁明をする。「今回は事故が起きたときの数値という使い分けです。そもそもヨウ素は自然界に存在しないので10ベクレルどころか、検出されません。今回、事故があったので原子力安全委員会がICRP(国際放射線防護委員会)を参照に作ったものです。水道法では基準値がそもそもなかったのです」と言う。要するに、緊急時なので300に設定したが、「事態が何年か先に収束した際には検出されなくなるはず」だという。
それでは「飲食物摂取制限に関する指標」に掲載されたヨウ素やセシウムなど放射線の種類は、今、福島の東電原発から放出されているすべての核種をすべて網羅しているのかと思いきや、「それについては原子力安全委員会に聞いてください」という答えだった。国民の健康を守る立場の厚生労働省では何が検出されていのるかは「分からない」のだ。
それならば、現在のところ、1リットル10ベクレルまでなら成人が1年間飲み続けても地球半周で受ける放射線量だとWHOが発表した値だ、と目安として覚えておくしかない。そんなわけで、当分の間、いかなる情報の鵜呑みにも用心が必要のようだ。(ジャーナリスト まさのあつこ)
東洋経済オンラインが「WHOが、日本の水道水に関する放射性物質の規制基準は国際基準の10倍厳しいと記載」と配信した
http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/90da673c7303f4584e2abd397391e9f1/
WHOの2011年3月22日発表資料
WHOのQ&A「日本で水道水は飲めますか?」
http://www.who.int/hac/crises/jpn/faqs/en/index8.html
「飲食物摂取制限に関する指標」(食品安全委員会 平成23年3月17日発表資料)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf