東電が原発建設を新たに申請

国会で参考人質問を受ける東京電力の清水正孝社長

事故収束の見通しもたたない3月末、東京電力は、福島第一原子力発電所に第7号機、8号機の新規建設を経産省に申請していた。4月18日の参議院予算委員会で、福島みずほ氏(社民党)がその事実を追求し、参考人招致されていた清水正孝東京電力社長はことの顛末を釈明した。

■東電は原発を続けるか

問題となった申請書類は、2011年度の電力供給計画書。年度末に提出することが、電気事業法で義務づけられているからだ。

「地震で電力設備の状況が大きく変化し、供給計画への影響を精査中だったため、やむなく7号機、8号機新設を残したまま提出した」と清水社長はいう。

しかし、実際に即した内容に変更した上で計画書を提出するよう「経済産業大臣からのご指示」があり、申請書は取り下げられた。「福島第7号機、8号機の新規建設を計上することはたいへん難しい」と、福島での新規建設が事実上ありえないことを清水社長は認めた。

書類提出には、悪意があったわけではないかもしれない。しかし、大臣の「ご指示」があるまで、国民や世界中の人の感情を逆なでする行為だという自覚が東電になかったことが本国会で明らかとなった。

古い原発の廃止、新規建設中止、浜岡原発など危険な場所にあるものの即時停止を福島氏は訴えた。菅首相や海江田経産大臣も、廃止判断よりも事故収束と原因解明が先決という姿勢だった。

「東電は原子力発電をやる資格はない」という福島氏の糾弾に対し、「(事故検証をふまえ)原子力政策を議論すべきであって、現時点で事業者の立場から今後の政策については申し上げる段階ではない」というのが清水社長の見解だ。

原発はあくまでも政策だから、新設も廃止も東電は判断ができないという意味だとしたら、それは責任放棄ではないか。

■ 組織的要因の検証を

3月末、東電社内の指揮系統はどうなっていたのだろうか。事故現場では命がけで仕事をする人がいる一方で、実現するはずもない供給計画書の作成、つまりまったく無駄な仕事をしている人がいたのだ。

なぜ、「ご指示」前に、計画書提出延期を自発的に政府に申し出ることができなかったか。

司馬遼太郎が「坂の上の雲」で描くバルチック艦隊が頭に浮かぶ。「ロシア軍の指揮系統の混乱とか高級指揮官同士の相剋とか、そのようなことがむしろ敗北をまねくようなことになっている」と司馬はあとがきで記す。

この深刻な事故の原因は、すでに言われているように、地震や津波などの天災だけでなく、人災だ。国家や大企業のいかなる仕組みが、この事故をより悲惨なものに導いたのか。必要なのは安全基準の見直しだけではない。司馬が描いた古き日本政府のような、合目的的に機能する国家や組織の姿なのではないか。(オルタナ編集部=有岡三恵)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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