「20人の妊婦さん、全員来れませんでした」――。事故を起こした東京電力福島第一原発から半径100キロメートル圏内に避難する妊婦らを沖縄で受け入れる活動を行う「つなぐ光」(沖縄県恩納村、金城睦代表)のブログに、今月23日に掲載された記事の題名だ。福島県内で被災した妊婦が沖縄への避難について家族で話し合ったものの、「みんな歯を食いしばっているのに、自分だけ抜け出すのは許されない」として断念したという。避難したくても出来ない「しがらみ」が妊婦らを呪縛している。
■「どうして、ここから逃げるんだ!」
「つなぐ光」では青森や宮城、千葉など、東日本大震災の各被災地からの妊婦や子ども連れ家族も受け入れる。とりわけ福島第一原発から半径100キロ圏内については、胎児および小児への被曝が懸念されることに加え、震災や放射能への不安から生じるストレスが妊婦らにもたらす悪影響が無視できないため、チラシを作製するなどして重点的に受け入れをアピールしている。
ところが、実際には妊婦らが被災地を離れられない事情がある。多くの親類、友人が「復興のために」と現地に踏みとどまることに加え、多数の犠牲者が生じた過酷な現実を経て「生き残った人間がこの土地を守り、復興させることが使命だ」という強い論調がある。
母親が子供のことを考えてより生活環境の良い場所に移ろうとしたところ、父親に「どうして、ここから逃げるんだ!」と反対され、狭い避難所に引き戻された実例もあるという。また、そうしたしがらみを振り切って避難したとしても、母親や妊婦は「自分だけが逃げてきた」という強い罪悪感を背負うこととなる。
■安心して送り出せる環境作りが大事
「つなぐ光」に寄せられる避難受け入れ要請の比率は、発足当初の3月下旬には宮城が約半数を占め、福島は4分の1程度だったが、4月中旬以降は福島からが8割を占める。実際に避難するのは要請全体の2割にとどまり、他は「しがらみ」で阻まれるという。
事務局の中川角司氏は「子育てをする立場にとっては『ここにいない方がいい』と感じれば、それこそが真実。後で笑い話になってもいいから、お父さんが安心してお母さんを送り出せるような世論作りが必要だし、政府が妊婦の方などを対象に避難勧告を出すことも大事」と話す。今回の取り組みではこれまでに15家族、約40名を受け入れた。
被災地から遠く離れた沖縄に原発はなく、温暖な気候と恵まれた自然環境も避難者の震災ストレスや不安の緩和には非常に有効だ。「つなぐ光」では1週間から1ヶ月程度の避難生活を受け入れ、定住希望者には専門の支援団体を紹介する。連絡先は事務局(098-966-1103)。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年4月26日