東京電力の福島原発事故を受け、原発の新規建設は困難ということが社会的コンセンサスになりつつある。同時に代替エネルギーとして、太陽光や風力などの自然エネルギーが俄然注目されている。
奇しくも、大震災のあった3月11日、政府は自然エネルギーの「全量買い取り」法案を閣議決定した。この法案が成立すれば、自然エネルギー導入の大幅拡大が期待できるが、それでもなお不十分だ。
確かに、現状の「余剰買い取り」に比べれば大きな前進だが、買い取りの価格決定権は依然、電力会社や政府に残る。全量買い取りで電力ビジネスへの新規参入は増えるだろうが、競争原理は働かない。政府が米をすべて買い取っていた食管法時代を思い起こせば良い。また、今回、全量買い取りが実現しても、政権交代や電力会社の巻き返しで、いつ何時余剰買い取りに戻らないとも限らない。
自然エネルギーの拡大を定着させるには、発電と送電を分離する本当の「電力自由化」が必要だ。エネルギー庁OBで霞が関政策研究所の石川和男代表はこう話す。
「昔言われていた電力自由化は『発電の自由化』でした。仮に新規事業者が電力事業に参入しても送電は既存の送電線を借りなければなりません。よって、電力会社の発電と送電を分離しなければ、平等な競争にはならない。本当の電力自由化を定義すれば『発電したものを自由に送電線に入れて不特定多数に売る』ということです。ただし、送電線の敷設まで自由にするとインフラとしてムダが多いので、送配電は1社独占のほうが効率的です」
発電と送電を分離すれば、ユーザーは発電会社を自由に選ぶことができる。世の中には「少しぐらい高くても自然エネルギーを買いたい」というユーザーは一定数存在する。今回のような原発事故があれば、なおさらそうしたユーザーは間違いなく増える。
つまり、本当の電力自由化が行われれば、「エコな電気」という具合にブランディングを行うことも可能なのだ。マーケティング次第で新しい電力ビジネスが成立するかもしれない。価格決定権がユーザーにあれば、脱原発とことさら感情的にならなくても、原発は自然淘汰されるのである。米だって新食糧法以降、高くてもおいしい米が売れているし、南魚沼産のコシヒカリが一番人気だ。電気も米と同じようになれる可能性がある。(横山 渉)