【ベルギー=川崎陽子】ドイツやベルギーの多くの学校では、原発問題を扱った小説『ディ ヴォルケ』が国語教材として採用されている。『ディ ヴォルケ』は、原発の危険性について、青少年でもわかりやすいように小説という形で出版された。4月30日には、著者を招いて朗読会が開かれた。
ベルギーのドイツ語共同体にある進学校では、多くのドイツの学校と同じように、原発事故を扱った青少年向け小説『ディ ヴォルケ(邦訳題名:みえない雲)』を8年生(日本では中学2年生にあたる)の国語教材に使ってきた。主人公は、学校で原発事故発生の通報を受け、家族を亡くし自らは被曝する14歳の少女で、ちょうど8年生の年齢だからだ。
国語教師たちは4月30日、ドイツだけで150万部以上読まれたこの小説の著者グドゥルン・パウゼヴァングさん(83)を招いて、朗読会を開催した。パウゼヴァングさんは、ドイツ語教師をしながら、絵本から大人向け小説まで92冊を出版してきた女流作家である。
パウゼヴァングさんは、チェルノブイリ原発事故以前から、原発事故や放射能被曝症状について、大人だけでなく青少年にも危険性を知る権利があると考えていた。事故の翌年、青少年でも読みやすいようにと小説という形で出版したところ、爆発的に売れた。
1988年にドイツ最高の児童文学賞を青少年・家族大臣から受賞して以来、教材に採用する学校が増えただけでなく、原発推進政党の政治家や原子力業界の経営者たちにも読まれるようになったという。日本を含む13カ国で出版され、2006年には映画化もされた。
15年前に『ディ ヴォルケ』を授業で読んだベルギーの銀行支店長は、「学校で読ませてくれたことに感謝している」と語った。ドイツ人の元教師によると、チェルノブイリの事故後、同僚の先生たちは、この本を国語教材に使おうと意見が一致し、実際に数年間は使ったという。
3月11日に発生した福島原発震災の収束目処はつかず、4月26日にはチェルノブイリ原発事故25周年を迎えたこともあり、会場には、生徒が作った原発反対のポスターが貼られていた。