東日本大震災からの復興をめぐって地域の再建が課題となる中、英国発の運動で日本にも徐々に浸透している「トランジション・タウン」に注目が集まる。ピークオイル(石油の減耗)や気候変動を踏まえて始まったこの運動は、化石燃料が可能とした大量消費への依存を改め、創意工夫と地域のコミュニティに根ざした持続可能な社会への移行(トランジション)をめざす。14日に明治学院大学(東京都港区)で開かれたシンポジウム(NPOトランジション・ジャパン主催)には230人が会場を埋めた。
■JFS枝廣氏「レジリエンスを」非電化・藤村氏「小さな仕事でつながる」
講演ではNPOジャパン・フォー・サステナビリティの枝廣淳子代表、非電化工房主宰の藤村靖之氏が登壇した。
震災後に宮城県石巻市へトラックで物資を届けたという枝廣氏は「『たくましい被災者』が注目されるが、それは個人として強いのではなく、その人を支える地域に強さがある」と指摘。その上で「短期の効率の重視は多様性や冗長性を失わせ、物流や生産のストップなどの社会的な機能不全をもたらした。そうならないためには長い時間軸に立ち、自然の揺らぎに合わせて生きることで社会や個人がレジリエンス(しなやかさ)を身に着けることが大事」と提起した。
また藤村氏は「競争ビジネスの対極としての、地域のニーズに支えられた持続可能な『小さな仕事』を営むことで、地域に関わる時間と収入の両方を確保できる」と提案。仕事や文化、地域の創造が循環する「ローカルクリエイティブ」の必要性を訴えた。小さな仕事の具体例には自動車用廃バッテリーの再生や、水洗トイレの雨水利用システムの設置などがあるという。
■個人の小さな変革が社会を動かす
会場では参加者同士が話し合う「ワールド・カフェ」も行われ、感想や気付きが共有された。トランジション・タウンの実践では仕事との両立も課題だが、参加者の一人は「会社勤めが大半を占める日常生活を今一度見直したい」と語った。
震災や東電原発事故が大量消費社会を根本から揺さぶる中、トランジション・タウンは地域という足元から生活と社会を見直すことを提案する。個人の小さな変革の累積は社会を動かすか。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年5月17日