東日本大震災で大きな被害を受けた被災地の復興への道のりは長く、企業ボランティアの役割も大きい。だが、被災地の状況に衝撃を受け、ボランティア後、業務に支障が出てしまうケースが多いという。メンタルヘルスマネジメントを行うピースマインド・イープ荻原国啓社長に、心理的な負担が減り、良い状態に早く戻れる方法について寄稿して頂いた。
■「訓練されていないボランティア」PTSD発症率3倍
震災から3カ月が経過し、大企業のCSR担当部署を中心として被災地へのボランティア派遣が続々始まっており、多くのメディアでも各社の状況を報じています。
その一方で、ストレス耐性の低い社員や、心身の状態が必ずしも健康ではない中、突発的に被災地に赴き、ボランティアから帰ってきた後に、自分が想像以上に疲弊することによって、職場に戻ったあとに通常業務に支障が出たり、時間が経過してから支障が出て生産性が落ちてしまったり、という状況が起きています。
また、自社の社員がどれぐらいボランティアに入っているかが把握できず、潜在的に職場の生産性が低くなっているケースもあります。これは、社員を派遣する前に、被災地へ行くことによるストレス反応や対応についての教育をまったく受けずに送り込んでしまっていることによる弊害です。
アメリカ9.11の同時多発テロの際の追跡データとして、「訓練されたボランティア」と「訓練されていないボランティア」ではPTSD発症率が約3倍も違うというデータもあります。
本末転倒のCSRにならないためにも、CSR推進部署は被災地支援の計画の中に「セルフケアについて」「ストレスケアについての情報提供、事前教育」を組み込んでおく必要があります。すでに被災地に派遣している企業は、派遣後のフォローアップとしても計画しておくことが重要です。
例えば、流通サービス業を営むY社では、被災直後にボランティアを派遣しました。ところが、その後、業務上のミス(書類紛失、顧客との約束エラー)などの増加がみられるようになったのです。
そこで、災害時ケアとしてのストレスマネジメントセミナーを実施し、災害時ケアの基本知識を教え、リラクゼーションの大切さを指導しました。
その後、小グループでボランティア帰還後の思いや考えをシェアしました。話し合いを通じ、「ふっと被災地のことを思い出して気持が揺れる」「以前より無理に頑張ってしまう」「どことなく仕事が手に付かない」などの症状は、決して自分ひとりだけでないことが分かり安心するようになります。仲間とのシェアを通じ、続いていた緊張状態が軽くなるのです。
■被災職場のメンタルヘルスも
当社では、震災から2 カ月経過した被災地域の職場におけるメンタルヘルスに関する実態アンケートを実施しました。
それによると、心理的応急処置=PFA(サイコロジカル・ファーストエイド)と呼ばれる集団心理教育を行うと、72.1%の参加者が「教育を受けたことで現状により良く対処する自信がもてるようになったと思う」と回答しています。
66.1%の参加者が「教育を受けたことにより気分が軽くなった」と回答しました。PFAとは、従業員に対して、震災後のさまざまなストレス反応と具体的な対処に関するアドバイスを行うことです。
例えば、被災地に派遣スタッフを送っていたIT企業のX社は、被災に会い、現地から引き上げてきた派遣スタッフへのメンタルケアを必要としていました。電話相談サービスとともに、面談による個別カウンセリングを実施しました。対面による個別カウンセリングでは、基本的な体調と、現在の仕事の忙しさなどを確認しました。
すると、過覚醒(かるい興奮状態)にある方が多く、普段より多くの仕事をこなしたり、プライベート面でも活動量が多くなっている様子が多く見られました。
そこで意識して休養を取るようアドバイスするなどを行い、組織的に休養の機会提供ができ、過重労働などの発生を予防することにしました。
ボランティアの人と言えども、実際の被災現場を見て、その被害の大きさに心理的衝撃を受けるのが今回の震災です。ボランティアから帰宅後、被災地の悲しい現実と、日常に近い生活を送っている被災地以外とのギャップに心を痛めるのは自然なことです。
もちろん心理的な衝撃は、時間と共に整理されていくことがほとんどです。しかし、少し意識して対処することにより、より早く良い状態に戻れるといえます。
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