「脱原発解散」で国民の信を問う

現在の衆議院議員は任期満了まであと2年ちょっと。地方選で負け続けている民主党は、どのタイミングで解散しても「よほどのこと」がない限り、総選挙で惨敗し、政権から転落するのは間違いない。ところが、今、その「よほどのこと」が目の前にある。「脱原発」だ――。

菅直人首相がそう考えているかどうかは定かでないが、首相が「脱原発」を掲げて解散するかもしれないという憶測が政界に広がっている。夕刊紙には「8月8日解散・30日告示・9月11日投票」説まで出ていた。被災地自治体が選挙事務を行えるレベルにまで回復しているかどうかがカギだが、今のスピードだとこの日程はかなり難しいかもしれない。

辞任の条件に再生エネルギー法の成立まで付け加えた菅首相だが、姑息な延命工作と取る向きは多い。ほんの数カ月前までベトナムにトップセールスで原子炉を売り込みに行っていた政権であり、「環境派」への急な転向に胡散臭さを感じるのも仕方がない。

とはいえ、エネルギー政策は、食糧や安全保障、税、福祉などと同様、シングルイッシューでも選挙で国民の信を問うべき大きなテーマだ。17カ所の原発、54基の原子炉は政府が「国策」として推進してきた結果であり、超長期の自民党政権下ではエネルギー政策が選挙の争点になったことはほとんどなかったはずだ。

自民党の河野太郎衆議院議員は原発の是非を国民投票で国民の信を問うべきだという。改革派の現役官僚として知られる古賀茂明氏も「国民投票すべきテーマですが、日本には憲法改正以外で国民投票の規定がありませんから」と話す。

憲法改正以外の場合、立法措置が必要となるが、その段階で原発推進議員によって100%潰されるだろう。よって、日本では国民投票よりも選挙のほうが現実的であり、手っ取り早い。

選挙は、テーマを設定して相手を自分の土俵に引きずり込んだ政党が勝つ。「郵政」1本に絞って05年に圧勝した小泉純一郎元首相はその典型だが、07年は参院選を「年金選挙」にした民主党が与野党逆転した。

もし、菅首相が「脱原発」を掲げて解散しても、電力総連から支援を受けている議員が多い民主党は、1つにまとまることができないだろう。そのとき菅首相はそうした労組支援議員を党から追い出す肝っ玉があるかどうか見ものである。また、自民党は必死に原発のテーマを避けようとするだろうが、酷暑の中の節電でイライラしている国民はそれを許さない。自民党は壊滅的な打撃を受けることになる。結果次第では、政界再編の引き金になるかもしれない。

エネルギー政策の転換も脱原発も実に簡単だ。国政選挙で原発推進議員を落とせばいいだけのことである。(横山渉)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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