
エネルギー政策を考えるうえで、温暖化問題の議論は欠かせない。そして、原子力神話以外にも、エネルギーや温暖化の問題をめぐっては多くの神話があるという。地球環境戦略研究機関(IGES)の気候変動グループ・ディレクターを務める東北大学東北アジア研究センターの明日香壽川教授に寄稿して頂いた。
日本政府高官が明言しているように、現在、「ゼロベース」でエネルギー問題や温暖化問題を考えることが必要とされる。そのためには、すでに壊れた原子力神話の他にも下記のような「神話」が日本には存在することを認識することが重要だと思われる。
神話1:「日本は温暖化対策のために原子力を推進してきた」
確かに世界でも日本でも原子力を積極的に推進する人々の中には、「温暖化対策のために原子力が必要」という議論をする人がいる。しかし、そのことをもって、温暖化対策を推進してきた人たちの総意が原子力推進ということでは全くない(三段論法として間違っている)。
逆に、日本には「原子力を推進すれば電力需要に対応しつつ温暖化対策になるとし、自然エネルギー導入や省エネ推進は不要」という作られた議論によって、実質的な温暖化対策は後退せざるを得なかったと言える。
神話2:「原子力対策が主要な温暖化対策である」
これも、前述の神話1と同じように、温暖化対策を推進する人々の総意ではない。また、しばしば聞かれる「原子力を推進しないのなら、停電を甘受あるいは温暖化対策を放棄するしかない」という言説も、あまりにも単純化された議論である。
例えば、プリンストン大学のロバート・スコロウ教授らは、現在すでに商業的に存在する技術(自然エネルギーや様々な分野の省エネなど)を普及するだけで、産業革命以降の温度上昇を2℃以内に抑えることが可能だとしている(原発による排出削減も含まれているものの、全体の削減量の14分の1でしかない)。