ソニーの新オフィスビルが品川区大崎に完成し、7月から入居が始まる。研究開発部門を中心に5000人が移転するこのビルには、ヒートアイランド現象を抑える試みとして気化熱を利用した世界初のシステムを導入するなど、随所に環境対策が施されている。
新社屋の「ソニーシティ大崎」は、JR大崎駅の西口正面にそびえる25階建てビル。旧大崎西テクノロジーセンター跡地1万6000平方メートルに2年がかりで建設していたものが完成し、7月4日から入居が始まる。
点在していたソフトウエア設計本部・ソフトウエア設計技術センターなどの研究開発部門を移転すると同時に、ホームエンタテインメント事業本部全体が集結する。集約化で商品力を強めるのが狙いだ。
このビルには、環境負荷低減のために、さまざまな最先端技術が用いられている。「バイオスキン」と呼ばれる世界初のシステムもそのひとつ。一見、ベランダの手すりのようにも見えるビル東側壁面に張り巡らされた70×110ミリの陶製の筒(ルーバー)の中には、絶えず水が流れている。
屋上から地下タンクに送られた雨水をポンプで押し上げ、壁面を覆うルーバー内で循環させる。水がルーバーから染み出たときに周囲の熱を奪う「気化熱」を利用することで温度を下げる仕組みだ。
「水を通すことでルーバーの表面温度を10度下げることができ、それに伴い周辺温度を約2度下げることが可能」(ソニー)。外部を涼しくすると同時にビル内部の空調負荷も減らし、年間でCO2の排出量を3%削減するという。
バイオスキンを作るに当たって、環境省の「クールシティ中枢街区パイロット事業」から2億8000万円の助成を受けた。建物周辺には「自然の森」をコンセプトとした緑化空間が広がり、合わせてヒートアイランド抑制に一役買っている。
この他にも、省エネの工夫は至る所に施されている。
ビル南面に太陽光パネルを設置し、ここで発電された電気を地下の大容量蓄電池(ナトリウム・硫黄電池)に蓄える。夜間にエネルギーを貯めることで、昼間の電力使用量を約3分の2に抑えることが可能となる。
また、屋上に設置された太陽熱パネルのチューブに水を通して給湯用の湯を沸かしたり、ガラス窓を多く採用して室内を明るくすることで、低消費電力のLED照明を数多く採用することができた。
ソニーでは、「ソニーシティ大崎」に導入したこれらのシステムの成果を見ながら、海外事業所の省エネシステムを設計する際の参考にするという。(有岡三惠、猪鹿倉陽子)