被災地での「恫喝発言」で日本中を騒がせた松本龍復興相は5日、ついに辞任に追い込まれた。復興相としての無神経な言動はあきれるばかりだが、環境相としては昨年、名古屋市で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で議長を務め、難交渉をまとめた手腕に評価は高かった。何が歯車を狂わせたのか。
松本氏は昨年9月、第1次菅改造内閣で初入閣し、環境相と防災担当相を兼務した。それはCOP10開幕の1カ月前というタイミングだった。
190カ国が加盟する国際会議の直前にホスト国の担当大臣が入れ替わるという珍事に、「日本政府は本気でやろうとしているのか」と国内外から批判が噴出した。
逆風の中で議長に就いた松本氏に、当然ながら周囲の期待は高くなかった。しかし会議が始まると、落ち着きを見せながら、ときにユーモアを交えた進行ぶりに評価は急上昇し始めた。
交渉は予想通り、遺伝資源の利益配分などを巡って先進国と途上国が激しく対立したが、最後に松本氏が折衷案的な「議長提案」を各国に提示する賭けに出た。
難色を示し続けたアフリカ代表を粘り強く説得、最終日の午後に議長案への支持をとりつけたときには、松本氏はじめ各国代表が会議室内で泣きながら抱き合ったという。
そして日付を越えて「名古屋議定書」の採択を告げる木槌を叩き、高々と振り上げる姿は、会議の象徴的な場面となった。
地元・名古屋のCOP10関係者は松本氏について「アグレッシブで精力的な人という印象はあったが、上から目線とか、傲慢という態度を感じたことはなかった」と振り返る。
もちろん愛知県知事や名古屋市長と会談する際、「先に入っておけ」的な物言いはまったくなく、逆に部下にも気を遣っていたほどだったという。
「松本さんは常に自分が先頭に立って物事を決めるとか、すべての物言いが丁寧ではなかったところはあった。しかし今回の被災地での言動は意外で、違和感がある。よほど熱意が空回りしてしまったのだろうか」。関係者は首をひねった。(オルタナ編集部=関口威人)