歩く。ボタンを押す。こんな日常の人の動きから電気を作る「振動発電」という技術が、東日本大震災後の防災意識の高まりの中で注目を集めている。人力での自立型電源として、床の誘導灯などに使えるためだ。
■発電床が防災の視点で注目
この技術は慶応大学発のベンチャー、音力発電(神奈川県藤沢市)の速水浩平社長(写真、はやみず・こうへい)が開発した。仕組みは圧電素子という部品で振動を電気に変えて、それを増幅させる。この技術を応用した発電床の場合には1回踏むとLED電球が最大300個を、一瞬だが点灯できる発電能力がある。
これまでは物珍しさやエコ発電として関心を集めていたが、東日本大震災以降は事情が変わった。発電床を災害時に停電した際に、足元を照らして道を示す誘導灯に使えないかと公的機関から学校、一般家庭まで問い合わせが相次ぐ。
同社はオーダーメイド型で発電床を提供してきた。インテリアメーカーの東リと組んで近く、踏むと光る発電床を一般向けに試験販売する。価格は現時点で未定だ。強化樹脂を使って厚さ約1.5センチと既存の床パネルとほぼ同じで踏み心地も変わらない。量産効果で将来は価格を引き下げたいという。
■電池なしリモコンなど広がる用途
振動発電は生活の場への多様な応用が可能だ。あらゆる物がIT化される「ユビキタス・コンピューティング」が広がる中で、小型コンピューターの電源になることが期待されている。例えば、同社はこの技術を使って、スイッチを押すと発電する電池なしのリモコン機器の製品化を目指した実証実験を行っている。
また人の動きだけではなく、将来的にはもっと大きな振動で発電することを検討中だ。自動車用道路や歩道に装置を埋め込み、その振動を使った発電実験や、音による発電の研究も行っている。
「環境に悪影響を与えない形で電気をつくり、使う社会を私の技術でつくりたい」。速水社長は、さまざまな発電機材を作るメーカー、そしてコンサルティング会社に成長したいと夢を語る。(オルタナ編集部=石井孝明)