
6月6日に出版されたルポタージュ『ふたたび、ここから』は、瓦礫に覆われた町で生き抜く人々の生々しい記録だ。フリージャーナリストの池上正樹氏が、東日本大震災発生の12日後から約1カ月間、宮城県石巻市、女川町、牡鹿半島などを取材してまとめた。いずれも大津波で壊滅的な被害を受けた地域である。
今回の津波は、海が見えない地域にまで押し寄せ、避難所をも襲い、尊い多くの命を奪い去った。ライフラインを断たれ支援が行き届かなかった地域では、数週間も風呂に入れないまま、人々は温め合い助け合って飢えをしのいでいた。
余計な装飾を加えることなく1つ1つのエピソードを丁寧に記録した同書で印象に残るのは、大切なものを一度に失いながらも立ち上がろうとする人々の言葉と、そこにみなぎる優しさと強さだ。
池上氏は「次から次へと縁がつながって取材が進んだ。祖母が石巻出身だったと今回初めて知り、先祖に導かれたような気がしている」と、執筆までを振り返る。

8月28日には、ポプラ社で同書の出版記念を兼ねた震災チャリティーイベントが開催された。前半は、主催者の女優mic(ミック)が、津波で家を失った老婦人や故郷を離れることを決めた漁師など、石巻や牡鹿半島で実際に会った人々の言葉や表情を一人芝居で舞台上に再現した。
後半は、同書の撮影をした写真家の加藤順子氏と池上氏のトークショーで、ゲストには、石巻から平孝酒造の平井孝浩社長と、NPO法人「フェアトレード東北」の阿部拓磨理事代行を迎えた。「あの日から時間が止まったような地域がある」「工事の順番待ちで年明けまで電気や水が使えない在宅避難者がいる」などと、石巻の厳しい現状が報告された。

会場では既に完売した平孝酒造の震災復興酒「希望の光」が振る舞われた。被災した酒蔵で奇跡的に味わい深く仕上がった酒だ。また、当日の参加費や書籍などの売り上げの一部はフェアトレード東北に寄付された。同NPOは、災害弱者にも配慮した地元ならではのきめ細かい支援を展開している。いずれのエピソードも、同書に詳しい。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)