木を診断して治療する樹木医が東日本大震災の復興で活躍している。震災では地域のシンボルとなっている多くの巨木が津波で流されたり、海水が引いた後も土の中に残った塩で枯れたりするなどの被害を受けた。心の支えとなる木を再生させて、復興につなげようと言う活動だ。
宮城県名取市の北釜地区は震災で津波に襲われた。森義一さん(58)は江戸時代から続く農家だが、家が壊れビニールハウスや田畑が水に浸かってしまった。農業を続けるつもりだが、まだ先は分からない。
森さんには心残りがある。家の敷地にある白樫(シラカシ)の巨木に葉が茂らない。この木の下には祠(ほこら)があり、「明神さまの木」と呼んで家族で親しんできた。「木を救いたい」。森さんの願いに、被災地支援を行っているひまわりプロジェクトが応え、日比谷花壇グループのエコル(東京都港区)で、被災した樹木を救う活動をしている樹木医で社長の神庭正則(かにわ・まさのり)さんを紹介した。
8月の日曜日に白樫の診察が行われた。神庭さんは木の周囲を掘って土壌と根を調べ、そしていくつかの枝を採って観察した。「生きていますね」。神庭さんの診断に森さんの顔がほころんだ。ただし治療しても、美しい枝ぶりの元の姿に戻るには10年以上かかるという。枝を剪定(せんてい)、そして固まった土を混ぜて空気を入れ、海水に浸(ひた)された土も少し入れ替えなければならない。木を復活するか、森さんは家族で考えるそうだ。
樹木医とは1991年から始まった制度で、現在は財団法人日本緑化センターが運営する。全国の認定者は約2000人で、造園や建設関係の仕事をする人や植物の研究者がなる例が多い。神庭さんは会社で都市の緑化や木の診断・治療をしている。昨年に神庭さんらは「緑の総合病院」を立ち上げた。樹木医などの木の専門家の集団で樹木を治療する全国的なネットワークだ。
神庭さんらは、今回の震災ではボランティアとして病んだ木を救う活動をしている。震災では、多くの木が傷ついた。岩手県の陸前高田市では日本百景に選ばれた「高田松原」の7万本の松が津波に流された。その中で一本だけ残った木を、神庭さんら樹木医が診断して治療法を考え、地元の人々とともに守ろうとしている。
「鎮守の森、里山、共有林など、樹木は日本人をさまざまな形で支えてきました。震災からの復興のために助けたい木がたくさんあります」。
木の復活が地域を蘇らせることを願いながら、神庭さんら樹木医は活動を続けている。(オルタナ編集部=石井孝明)