東京電力福島第一原発事故後、福島県内で「年間100ミリシーベルトの被曝は大丈夫」と唱えて物議を醸した、福島県放射線健康リスクアドバイザーの山下俊一・長崎大学教授が9月1日、日本対がん協会から「朝日がん大賞」を受賞した。これに対して市民団体からは抗議が寄せられ、ネット上では疑問視する声が相次いでいる。
■「福島県民の被曝医療に貢献」
日本対がん協会は朝日新聞の支援で設立された財団法人で、がん撲滅に功績のあった個人や団体に「朝日がん大賞」を毎年授与している。
同協会は山下教授への授賞理由を「チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんの激増を科学的に解明した」「東電原発事故発生後、福島県内で低線量被曝による発がんリスクの有無を調査研究」と説明。朝日新聞も1日、「福島県民の健康調査や被曝(ひばく)医療への取り組みが評価された」と報じた。
だが山下教授と言えば、事故後の3月下旬から福島県内各地で「年間100ミリシーベルト以下の被曝であれば、妊婦でも子供でも問題ない」との発言を繰り返した人物だ(画像参照)。
低線量被曝では、100ミリシーベルトの被曝で100人に1人の発がんが認められることが明らかな一方、それ以下の被曝線量での発がんリスクはよく分かっていない。にもかかわらず「問題ない」と発言し続けた同教授に対して「県民を被曝にさらすのか」などと批判の声が上がっていた。
「子どもたちを放射線から守る福島ネットワーク」は3日に抗議声明を発表。「なぜ山下氏の行為がこうした形で評価されるのか。氏の発言が、子どもたちを守ろうとしている福島の親たちをどれだけ苦しめてきたか」と憤りをあらわにした。またツイッター上でも「ブラックジョークか」「『がんにさせる賞』じゃないか」などと疑問の声があふれる。
■対がん協会「山下氏の発言、知らない」
こうした山下教授の発言について、日本対がん協会は6日までに「詳細は承知しておりません」と回答。また選考過程も「公表していない」と実に素っ気ない。同賞設立に協力した朝日新聞も「選考するのは日本対がん協会で、弊社は答える立場にない」と全くの他人事だ。
福島県民の被曝のリスクを高めることになるかも知れない山下教授への権威づけが、責任の所在も明らかにされぬまま、行われようとしているのではないか。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年9月13日