原発問題を巡っては、大手新聞の間でもスタンスの違いが際立っている。東京新聞や毎日新聞が「脱原発」の旗色を明確にしたのに対し、原発擁護の筆頭は産経新聞だ。それにしてもなぜ、産経がこれほどまでに原発推進なのだろうか。
「感性に流れる選択よりも、理性に基づく判断が必要だ。安全性を再確立して範を世界に垂れ、脱原発の流れを食い止めるのは、事故を起こした国として日本が国際社会に果たすべき責務であろう」
(中略)
「このままだと、日本は、諸外国の目に脱原発路線と映る。それが第4、第5のドイツ、イタリアを生みかねない。脱原発の電力不足は火力発電に委ねられ、原油や天然ガスの価格高騰を招く。エネルギー不足とコスト高は日本経済、ひいては世界経済にも悪影響を与えかねないのである」(2011年6月11日付け社説)
この社説に象徴されるように、大手メディアの中で、産経新聞は原発推進の急先鋒だ。読売新聞は、社主だった正力松太郎氏が初代科学技術庁長官で「原子力の父」とも呼ばれる人物なので分かりやすい。
では、産経新聞はなぜ、これほど原発推進なのか。同紙の元社会部記者はこう話す。
「産経はエネルギー問題としての原発なんて興味がないはずです。反中国・反北朝鮮として核武装も辞さず、というスタンスですから、反原発の動きが反核につながると困るのです」
産経の「正論」後援会で全国行脚している櫻井よしこ氏も「原発の技術は軍事面でも大きな意味を持つ」と同新聞の主張を代弁している。
こうした「反核封じのため」という意見に対し、「そんなレベルの高い話ではない」と一蹴するのは、『フジサンケイ帝国の内乱』の著者で日本工業新聞の記者だった松沢弘氏だ。
松沢氏は「お金が欲しいだけ」と同社の苦しい経営状況について指摘する。「原子力キャンペーンなどは私が働いていた当時もよくやっていましたよ。この会社は昔から、その時々の財界が困っているテーマにぶつけて、支援するようなシリーズ記事をぶち上げたりしてお金を集めているのです」
昨年10月30日付の産経新聞(東日本版)でも、見開き2ページ全部を使って、『電気はどこで作られて、どう使われているの?』という見出しで「事業特集」を掲載していた。
記事では原発立地と首都圏の小学生が相互の生活地域を訪問・交流し、原発や環境問題について学んだというイベントを紹介した。
原発推進のための「原子力広報・教育予算」は毎年60億円にのぼる。いわば、税金を使って「原発安全神話」の刷り込みをしていると言っても過言ではない。
事業を請け負っているのは、日本原子力文化振興財団、電通、博報堂、そして産経新聞などである。こういう「事業特集」という名の広告企画を見ると、広告費目当てという狙いは成功しているように見える。松沢氏は「産経は商売としての原発推進」に過ぎないと言う。
ただ、こうした予算もいつまで続くかは分からない。東京電力からの広告費も、もはや期待できない。金の切れ目が縁の切れ目になるか、今後の展開が興味深い。(横山渉)