
イタリアの都市レッジョ・エミリアは、まちぐるみで子どもの可能性を引き出す幼児教育で世界的に注目されている。その仕組みを取り入れた「まちの保育園 小竹向原」が、東京都練馬区に今春オープンした。開園から半年、多くのボランティアが登録し、併設された「まちのパーラー」も好評を博すなど、保育を通じた近隣のコミュニケーションが生まれている。
■子どもの可能性を信じる
池袋から地下鉄で10分たらずの小竹向原。30年前に開発が始まった住宅街にこの保育園がある。「一方的に大人が躾るのではなく、子どもが生まれもった力を発揮してもらいたい」と創設者の松本理寿輝氏はいう。
たとえば、保育室は大きなワンルームだ。年齢によって壁で仕切るのではなく、子どもたちの使い方に応じて空間をフェンスで間仕切る。使いながら考え、家具の位置を変更するなど、毎週のようにその形態が変わる。
粘土は、最初から切り分けて与えない。20キログラムの塊を床に置くと、不思議に思う子どもたちは触ったり、においをかいだりする。やがて、土に可塑性があることに気づき、大人が創造しなかった用途を見い出すそうだ。
「子どもの可能性を信じ、大人の計画や概念にあてはめない」と松本氏。
■ 大人も楽しめるカフェで、まちとつながる
建物はガラス張りで周辺地域に開かれ、通りから中の気配を感じられる造りだ。しかし半地下になっているため、内部に居る人のプライバシーは守られる。
夜9時まで営業する「まちのパーラー」を併設することで、送迎にくる園児の家族はもちろんのこと、地域の人にとっての憩いの場を提供する。パンの購入もできるため、デイリーユースとして便利で、かつ美味しいと評判だ。
専門の職員の他に多様な年齢性別のボランティアが教育に関わっているのも特徴だ。人格形成に大切な0〜6歳の時期に、多様な老若男女に関わることは園児にとってよい効果を及ぼすという有力説がある。大人にとっても、子どもが巣立った後のエンプティ症候群予防など、幼児教育を通じたコミュニケーションが相乗効果をもたらす。
松本氏は「理想の保育園は、理想のまちづくりにもなるのではないか」と、次なる施設の展開を目指す。(オルタナ編集部=有岡三恵)