愛知県が学校給食に地元産のイノシシ肉を使おうとして、放射能汚染を懸念する母親たちの反発を招いている。
県は「安全性に問題はない」として事前検査はせず、17日にシシ肉を一部の学校給食に提供。母親らは独自の検査を決めるなど、波紋が広がっている。
給食が出されたのは愛知県山間部の豊根(とよね)村。近年、シカやイノシシによる農作物被害が急増しているため、県や地元は捕獲した肉を地域資源として利用することをすすめている。
今回は近隣の新城(しんしろ)市内で解体処理されたイノシシ肉を「シシミンチカツ」に加工。「秋の味覚を味わう」イベントとして村の小中学校と保育園の児童、約150人に提供されることになった。
これに対し、県内に住む母親らでつくる「原発に不安を感じるママの会」が事前の放射能検査を求めて県や業者に要望書を提出。検査用の食材の提供も求めたが、県は応じなかった。
県農林水産部は「イノシシ肉の放射能汚染について他県の状況を見ると、群馬から西は基準値以下。愛知産は問題がなく、他の農産物と同様に検査自体が必要ない」との立場。
県には20件ほどの抗議電話が寄せられたが、地元の保護者らから反対意見はなかったとして予定通り給食の提供に踏み切った。
一方、「ママの会」側は「検査しないで安全というのは単なる憶測。県がやらないなら自分たちでするしかない」として、今回シシ肉を提供した業者から独自に肉を取り寄せ、名古屋市内の「市民放射能測定センター」に検査を依頼することにした。
イノシシ肉については、福島県で国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)の10倍を超える最高5720ベクレルの放射性セシウムが検出され、政府は9日に相馬市など12市町村で肉の出荷停止と摂取制限を指示したばかり。本格的な猟期に入り、タケノコやキノコを食べるイノシシを不安視する声が上がる。
しかし、イノシシによる農作物被害は関東以西の西日本が深刻な状況。放射能汚染への懸念から狩猟や消費が控えられれば、被害の増加に拍車がかかる恐れもあり、悩ましい問題となる。(オルタナ編集委員=関口威人)