食品販売の「Oisix」(オイシックス、東京都品川区)。2000年の創業以来「安全で豊かな食生活を提案する食品流通プラットフォームを目指す」という目標を掲げて成長してきた同社は、東日本大震災と原発事故の後にもさらなる注目を集めている。
販売する商品の放射性物質の検査を行って消費者の安心をつなぎ止める一方で、関係する生産者を風評被害から守った。同社の取り組みから、食の流通に関わる企業の「行うべき責務」が見えてくる。
■原発事故直後に全量検査を開始
オイシックスは3月11日の震災と原発事故の発生後に、自社の配送センターで食品の流通前に放射能の検査をする体制を整えた。そして3月18日から、対象となる全食品に検査を行い、国の放射能の暫定基準値を超えていないことを確認して出荷した。
また7月からは震災前の国の基準値を検査に採用した。4月3日以降は震災前の基準値を超える食品はなくなったが、検査を現在でも続けている。
同社の検査の特徴は、納品された全品目を対象に実施している点だ。大半の食品販売会社は一部のみを行うサンプリング検査で、農協なども検査の大半を行政に任せている。
福島県で秋になって収穫された米などから、暫定基準値を上回る放射性物質が検出されるなどの問題が生じている。
同社は生産者と連携し、放射能汚染のないように配慮して生産された食材のみを仕入れている。また以前から全食材には生産地、出荷者の名前をつけて食材の生産・流通履歴を明確にしている。
同社は1000以上の生産者と関係があり、1日の検査数は350—500品目になる。約10台の検査機械が毎日フル稼働になっているが、そのコストは販売価格に転嫁はしなかった。
「徹底した取り組みが、食の安心と安全を守るのと同時に、風評被害に苦しむ被災地の生産者の方々の助けにつながると確信しています」と、品質管理担当の冨士聡子さんは話す。
■情報の開示と講習会で消費者の信頼を確保
オイシックスはネット上での宅配サービスと、都内の2店舗で食材を販売。これまでの宅配は「会員制」など敷居が高かったが、同社のサービスでは消費者のニーズに応じて購入する食材を少量から、量や種類をさまざまに変えて購入できる点が人気だ。
主な顧客は自分と家族の健康に関心を持ち始めた30−40歳代の主婦だったが、そこからさまざまな人に広がっている。
創業当初から「単なる食材販売業」ではなく「食生活の提案」を行い、消費者と生産者、オイシックスが信頼を持ってつながることを目指してきた。
食の安全にこだわるのも、「作った人が自分の子どもに安心して食べさせられる食品だけを届ける」という、同社の方針の延長にある。
放射能をめぐり、誰もが不安を感じている。「お客さまの不安は当然のこと。私たちは、少しでも和らげる努力をしたいです」(冨士さん)
同社は、検査や食材と放射能に関する講習会をこれまで17回開き、商品の情報開示など、事実をユーザーに伝える努力を重ねている。さらに東北の食材の販売支援も行っている。
放射能について、企業、行政や農協からの情報発信は少ない。ある食品企業の担当者から「手間がかかる」とホンネを聞いた。それがさらなる食への不信や風評被害を招いている。
一方で、食の安全に向き合ったオイシックスは震災後にも販売の落ち込みなどはなかった。まじめな仕事を消費者はしっかり見つめている。(オルタナ編集部=石井孝明)