脱原発で高まる田中正造の再評価――100年前の日本で物質文明を否定

物質的な豊かさばかりを追う人間の愚かさを嘆いた田中正造

明治時代の公害・足尾鉱毒事件の解決に熱心にとりくんだ代議士・田中正造のカレンダーを毎年制作している市民団体「田中正造大学」(栃木県佐野市)が、2012年のカレンダーを発表した。

「デンキ開ケテ、世見(世間)暗夜となれり」という正造の言葉が、B2判(12ヶ月一枚)の中央に印刷されている。物質的な発展や人工、人為の進歩のみを追及すれば日本は亡びてしまうという警告だという。同大学・事務局長の坂原辰男さんに聞いた。(聞き手・編集委員 奥田みのり)

――「デンキ開ケテ・・・」につい教えてください。

今から約100年前の1913年7月21日、正造が亡くなる数十日前の日記に書かれた言葉だ。カレンダーでは一部を紹介したが、全文は以下の通り。

「物質上、人工人為の進歩のみを以てせバ社会ハ暗黒なり。デンキ開ケテ世見暗夜となれり。然れども物質の進歩を怖るゝ勿れ。此進歩より更ニ数歩すゝめたる天然及無形の精神的の発達をすゝめバ、所謂文質彬々知徳兼備なり。日本の文明今や質あり文なし、知あり徳なきに苦むなり。悔改めざれバ亡びん。今已ニ亡びツヽあり。否已ニ亡びたり」

社会が物質的な発展や進歩のみを追及すれば、人間社会は暗黒になってしまう。しかし、物質的な発展より天然自然のエネルギーを活用し、精神的発展が先を行くような文明であればいいと言っている。

日本の文明は外見だけを飾っていて実質がない。それで知に偏っており徳がないと批判し、今の文明を改めようとしなければ日本は亡びてしまうと警告している。

――原発の事故後、正造の言葉が度々新聞などで引用されている。

東京電力福島第一原発の事故で明らかなように、ひとたび事故が起これば放射能をまき散らす原発は、本当の文明といえるのだろうか。正造の言葉は、現代文明を見直すきかっけになるだろう。

――「真の文明ハ山を荒さず、川を荒さず、村を破らず、人を殺さゞるべし」という正造の言葉が有名だが。

これは1912年6月17日の日記の一文で、2009年のカレンダーに採用した。足尾銅山鉱毒事件は、山を荒廃し、渡良瀬川を死の川にし、村の自治を破壊した。「デンキ開ケテ・・・」とともに、これらは正造の文明論といっていい。

2013年には田中正造没後100年を迎え、田中正造大学は様々な催しを計画している。多くの人に参加してもらい、正造の思想に触れてほしい。

カレンダーの購入について

1枚500円(送料300円)。80円切手10枚を同封し、〒327-0001 栃木県佐野市小中町932田中正造大学事務局まで。10本以上の注文は送料無料。

 

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..