市場規模は極めて小さいが、地域のニーズを満たす「月3万円ビジネス」が東日本大震災後、注目を集めている。震災を機に福島県郡山市から上京した前田敏之氏(36)はこの1月、同ビジネスのための交流サイトを開いた。
■書籍刊行で脚光「月3万円ビジネス」
「月3万円ビジネス」とは、電気に依存しない「非電化製品」の発明で知られる非電化工房(栃木県那須町)の藤村靖之代表が提唱する、競争優位や大量消費を価値としない地域密着型のビジネスモデルのことだ。
月3万円ビジネスの例として藤村氏は「自動車用廃バッテリーの再生」や「水洗トイレの雨水利用システムの設置」などを提案する。いずれも市場規模が小さいので「月3万円しか稼げない」。一方で競争にさらされないため、地域でのニーズを満たしながら息長くビジネスを続けることができる。また、同様のビジネスモデルを10個「複業」することで月30万円稼ぐことも可能、と藤村氏は説く。
東日本大震災を通じて一極集中や大量消費、競争優位の価値観が揺らぐ中、昨年夏に藤村氏が同名の著書を上梓したことで、「月3万円ビジネス」は新しい生き方、働き方として脚光を浴びている。
■「会社にぶら下がらない生き方は可能」
前田氏は非電化工房が開催する「地方で仕事を創る塾」の修了生。ドイツで有機農業などを学んだ後、郡山市内で父が経営するリサイクル店を引き継ぎ、味噌やしょうゆの量り売り、古物販売などで生計を立ててきた。
ところが原発震災の影響を受けて、前田氏は店舗をたたむ。放射性物質への不安もさることながら、震災を機に「今まで店舗で大量の電気を使ってきた」と、自身を振り返った結果だという。
「これからは社会がローカル化しないとやっていけない。けれども経済的な不安から、多くの人は会社に依存する生き方をやめられない。月3万円ビジネスを通じて、会社にぶら下がらなくてもいい別の生き方もある、ということに気付いてもらえたらうれしい」と前田氏は語る。
サイト上では早くも新しいビジネスのアイデアが寄せられ、月3万円ビジネスに関心を持つ人同士の交流も始まっている。(オルタナ編集部=斉藤円華)2012年1月19日