従来の農薬よりも遥かに毒性が強い「ネオニコチノイド系農薬」が、日本の生態系に大打撃を与えている。特にミツバチは、全国各地でCCD(蜂ほう群ぐ ん崩壊症候群)と呼ばれる大量死や大量失踪が相次ぐ。その実態を知るため、オルタナ取材班はミツバチ大量死が2009年に報告された長崎県の島々を訪ねた。取材・文=斉藤円華(編集委員)、撮影=高橋慎一
■人なつこい壱岐島のハチ
最初に訪れたのは博多港からフェリーで約2時間、九州北方の玄界灘に浮かぶ長崎県の壱岐(いきの)島だ。この島ではニホンミツバチの養蜂が行われており、2年前に長崎で発生したハチ大量死の被害が少なく、ハチや巣箱の様子が観察できるという。
壱岐島や五島列島でニホンミツバチを復活させ、現在は「ミツバチたすけ隊」の代表としてハチの生態研究に取り組む久志冨士男氏(76)の案内で、巣箱と対面した。「ニホンミツバチは人なつこいですよ」
四角い木枠を重ねた巣箱の底辺から、ミツバチがさかんに出入りしている。人に慣れるとはいえ、見知らぬ人間が近づいたことで少し警戒しているようだ。ブンブンと羽音がするが、これはハチ同士が注意を促すサインという。
久志氏、そして巣箱を管理する壱岐日本ミツバチ産業組合の齋藤政博専務理事(73)のアドバイスの下、まず巣箱の脇にしゃがみ、頃合いを見ながら巣箱の出入り口近くに手を置き、少しずつ近付ける。
こうして、ハチの警戒心を徐々にゆるめるのだ。ハチたちは、最初は置かれた指を避けていたが、まず触覚で触れ、次に前脚を乗せ、やがて何匹かが指の上に乗るようになった。
「もう刺されません」と久志氏。齋藤氏も「ミツバチはスズメバチなどの天敵から身を守るため、人間と共生することを憶えたのでは」と話す。人間に外敵から守ってもらう見返りが、ハチミツというわけだ。
そのハチミツを試食した甘いだけではない、フルーツのような芳醇な味わいが口の中に広がる。中国産の最上級品とされるハチミツと比べたが、壱岐島産の後では雑味ばかりが印象に残った。
■ネオニコの強毒性か
実は壱岐島でも現在、主に水田でネオニコチノイド系農薬が散布されている。しかし使われるのは、数種類ある同系農薬の中でも比較的毒性が弱い「スタークル」だ。
「『スタークル』では大体3分の1のミツバチが生き残る。だが『ダントツ』を散布されれば全滅だ」(齋藤氏)
水に溶け、神経伝達系に作用するネオニコチノイド系農薬は植物によく浸透し、しかも効き目が長いものでは半年以上も持続するのが特徴だ。
中でも成分にクロチアニジンを用いる「ダントツ」はネオニコチノイド系の中でも特に毒性が強い。余談だが、このダントツを製造販売しているのは「原発は千年に一度の津波に耐えて素晴らしい」と発言して物議を醸した米倉弘昌・経団連会長を輩出した住友化学だ。
■帰巣本能も奪う 次に続く