携帯電話普及率65%というIT先進国インドだが、トイレ事情は世界で最も遅れていて、トイレ無しの家、あっても穴だけのものも多い。その排泄物の処理は不可触民(カースト制度外の最下層民)女性の役割というカースト制度の慣習も残っている。
■ 排泄物が液体肥料にも
インド独立の父ガンジーも、その女性たちをこの不衛生で屈辱的な仕事から開放するという念願を果たせなかった。そこで、ビンデシュワー・パタック博士(カースト最上層バラモン、70歳)は、40年前から排泄物処理作業の必要の無いバイオトイレの普及に取り組んでいる。パリでも、同氏を招いたソーシャルビジネスの講演会が開催されるなど世界で注目を集めている社会起業家の一人だ。
パタック博士は、不可触民女性救済をめざして、1970年にNGO「サラブ国際社会事業機関」を設立し、同氏が開発した排泄物処理作業の必要の無いバイオトイレの普及に取り組んでいる。
このトイレは、便器と地下に設置したレンガ作りの排泄物用貯蔵庫2つ(仮にA、Bとする)をパイプで連結して、Aが一杯になったら、Bに切り替えられる。1つの穴は3年ほど使え、最初の穴に捨てられた排泄物は、もう一方を使っている約3年間の間に徐々に自然分解されて、肥料として使えるようになる。
低コスト(5人用で10ドル~)でどこでも簡単に設置できることが特徴だ。通常のトイレは一回流すのに10リットルの水が必要だが、このシステムでは2リットルで済む。
これまで120万戸以上の家屋にバイオトイレを設置し、さらに1250カ所の都市で7500台以上の清潔な有料トイレ(使用料1回1ルピー)を建設してきた。
巡礼地のような群衆が集まる場所では、シャワーや荷物預かり所などのサービスを併設したものもある。現在インドでパタック式バイオトイレの利用者は1日1000万人に上ると言われている。
■ 収益は職業訓練や教育費に
有料トイレの売上収入は、エステティシャンや裁縫など、排泄物処理の仕事から解放された女性(これまで約12万人)のための職業訓練、その子どもたちの教育などに使われている。
そのほか、公衆トイレの排泄物を利用して、バイオガスエネルギーと廃液浄化による液体肥料を生産する技術も開発して、病院、学校などの公共機関で利用されている。
バイオトイレに関する特許は一切無く、トイレ事情の改善に取り組む世界の公共機関に無料で技術を提供している。(パリ在住=菊地広子)