福島第一原発事故からわずか3カ月後、2011年6月にドイツ政府は原発全廃を法制化した。この急速な「脱原発」の流れを後押ししたとされるのが、2010年に同国で13万人を動員したドキュメンタリー映画「第4の革命――エネルギー・デモクラシー」だ。自然エネルギーの普及を進める欧州や開発途上国の電力過疎地の現状に迫っている。このほど来日したカール-A.フェヒナー監督と元内閣官房参与で多摩大学大学院教授の田坂広志氏が、エネルギー問題を語り合った。(オルタナ編集部=吉田広子、撮影・オルタナS特派員=柳生大志)
■ 100%自然エネルギーへのシフトは可能
赤、青、オレンジのネオンが輝くロサンゼルスの夜から、この映画は始まる。その映像は、これほど膨大な電力消費を自然エネルギーだけで賄うことができるのかと問いかける。
フェヒナー監督は、「今後30年以内に自然エネルギーへの転換は可能だ」と言い切る。「理想を語るだけでなく、具体策を提示したかった」という言葉通り、本作では、風力発電のみで5万人分の電力を賄うデンマークのエネルギー自治区や、4万5千世帯分の電力を供給するスペイン・グラナダ市郊外の巨大な太陽光発電所などを紹介していく。
本作のナビゲーターを務めるヘルマン・シェーア・ドイツ連邦議会議員は、1990年の固定価格買取(FIT)制度、2000年に「再生可能エネルギー法」を制定させた環境活動家でもある(2010年10月に死去)。2001年に2.9%だったドイツの自然エネルギーの割合は、2010年には20%にまで上がり、2020年には47%が見込まれる。
フェヒナー監督は、「福島第一原発の事故がドイツの脱原発を加速させた。初の『緑の党』の州首相が誕生し、メルケル首相も脱原発に舵を切った」と語る。
■ 「参加型民主主義」の実現を
一方、日本では、原発事故後、原子力行政・産業の改革がなされないままに、再稼動の議論が先行している。その中で、自然エネルギー推進派にとっての希望は、2012年7月に施行される「再生可能エネルギー法」だ。
原子力工学の専門家でありながら、内閣官房参与として菅直人前首相に「原発に依存しない社会の実現」を提案してきた田坂氏は、「エネルギー革命は、参加型民主主義を実現する一歩である」と主張する。
「まずは今の日本の民主主義のあり方を変えなければならない。真の民主主義とは、選挙に行くことだけではなく、国民一人ひとりが国の運営と変革に主体的に参加することに他ならない。自然エネルギーの普及や省エネルギーの推進は、すべての国民が新たなエネルギー社会の実現に参画できるという意味で、参加型民主主義を実現する素晴らしい政策でもある」という。
■ 開発途上国の経済的自立のきっかけに
世界ではまだ20億人が餓えに苦しみ、電気の無い生活を送る。しかし、世界中で誰でも平等に利用できる自然エネルギーによって、小規模分散型のエネルギーシステムを作ることができれば、開発途上国の経済的自立を促し、貧困や環境の改善にも繋がるはずだ。
マリの村では、病院の屋根にソーラー発電設備が設置され、初めて電気が点いた。植物油ジャトロファを使用した発電も進んでいる。原料をただ販売するだけだった貧しい農家も、電力を得ることで、農産物を加工し付加価値をつけて販売することができるようにもなる。
田坂氏は、「原子力エネルギーなどの大規模集中型システムとは異なり、自然エネルギーのような小規模分散型システムは、『複雑系』としての性質を強めていくため、しばしば『バタフライ効果』が起こる。すなわち、『北京で蝶々(バタフライ)が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンが起こる』という比喩に象徴されるように、社会の片隅での新たなエネルギーシステム導入の小さな動きが、社会全体の共鳴や共感を生み出したとき、極めて大きな社会的運動となっていく」と語る。
化石燃料に依存した「持つ物」「持たざる物」の富の構造が、自然エネルギーによって変わりつつある。フェヒナー監督は問いかける。「日本は、福島原発の危機から何を学ぶか。3.11以前と同じ日常に戻るのか。それとも今立ち上がって、再生可能エネルギー100%へ向けてシフトするのか」。
「第4の革命」は、2011年12月から全国各地の映画館で上映されている。配給会社のユナイテッドピープル(千葉県いすみ市)は、自主上映者も随時募集している。
<上映スケジュール>
「第4の革命」上映スケジュールはこちらから http://www.4revo.org/theater
<自主上映者募集>
・上映料金について
73,500円(税込)/日(同じ会場に限り)
101人以上の動員の場合は525円(税込)/人の追加料金がかかります
・入場料について
入場料はご自由に設定可能
詳細・お申込はこちらから http://www.4revo.org/jishujouei