八ッ場ダム、致死量25億人分のヒ素混入の危険性も

品木ダム(群馬県中之条町)は、炭酸カルシウム(石灰)と酸(硫酸・塩酸)との化学反応によって発生する中和化合物を収容するなど中和緩衝池としての機能を持つ

民主党のマニフェストによる工事中止方針が一転覆された八ッ場ダムは、実は深刻な水質問題を抱えている。

ダムに流れ込む吾妻川は強い酸性河川で、ダムの構造物をむしばみかねない。上流の万代鉱山から年間50トン(累計500トン以上)のヒ素が吾妻川に流れていることも研究者の調査で明らかになった。

集中豪雨や酸化によるコンクリートの劣化によって八ッ場ダムが崩壊すれば、ヒ素が下流の利根川に流れ込み、首都圏に健康被害が及ぶ可能性さえある。

温泉郷・草津に行かれる方には、一度、品木ダム、上流の石灰投入工場を見学することを勧める。湯川から流れ込む急流がもたらす青灰色の品木ダム湖の水は、不思議な違和感を与えるに違いない。上流の石灰投入工場は、大きなタンクが見学者を圧倒するような巨大さで見る者を威圧する。

そして、はるかにそびえる白根山を遠望していただきたい。白根山を眺めればその手前中腹山中から、白い蒸気の噴煙が立ち上っているのが印象的だ。その白煙は、酸性水とヒ素を排出する旧硫黄鉱山「万代鉱」が吐き出す白煙なのである。品木ダム湖、石灰工場、白根山麓の万代鉱。この三つの光景が実は、八ッ場ダム問題の核心である。

■ 八ッ場ダムは品木ダムなしに成り立たない

八ッ場ダムが作られる計画の吾妻川には、白根火山等が排出し続けている強烈な酸性水が流れている。鉄は溶け、コンクリートは劣化し、八ッ場ダムは崩壊する可能性が高い。

1952年当時、建設現場周辺を調査した建設省は、この酸性水障害があるので、八ッ場ダムの建設を断念した。その後、八ッ場ダム建設に執念を燃やした建設省の落合林吉課長(当時)が、上流に石灰を投入する工場を作った。一日も欠かさず群馬県から一日60トンの石灰を工場に搬入し、湯川から流入する酸性水を中和化し、ダム湖に溜まる汚泥を浚渫し、処分場に入れる中和システムを作った。

高さ43.5メートルの重力式コンクリートの品木ダム

この結果、「酸性水の問題は解決した」と建設省は大宣伝をして、「八ッ場ダム計画」を断念した15年後に復活したのである。

■ 25億人致死量のヒ素が八ッ場ダム上流に堆積

八ッ場ダム計画については、建設費など様々な問題があるが、筆者は八ッ場ダム問題の核心は、次の3点にあると考える。

1)上智大学の木川田喜一博士の白根山有毒物質調査によって、品木ダムの上流、万代鉱山から年間50トン(累計500トン以上=25億人分の致死量相当)のヒ素が品木ダム、同処分場に流れ込んでいる事実が「地下水技術」誌に発表された(2006年)。

2)品木ダムは集中豪雨の時代、地震活動の時代には崩壊は必然であること。

3)中和システムは、酸性水の害もヒ素の害も防ぐことができない。

筆者はこの事実を国交省記者クラブで2008年10月に詳しく発表したが、マスコミはこれを一切無視し、国民のほとんどがこの事実を知らなかった。

現在、野田内閣は「八ッ場ダムの工事中止」というマニフェストを平然とかなぐり捨て、国民を八ッ場ダム崩壊とヒ素による死の地獄に誘い込んだ。八ッ場ダムは草津の品木ダム(品木中和システム)によって成り立つ。品木ダムは八ッ場ダムを酸性水による崩壊を防ぐためにのみ作られた。八ッ場ダムと品木ダムは人頭馬体のケンタウロスであり、片方が無くなれば、片方も存在しえない。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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