「減思(げんし)力」を防ぎ、判断力・批判力を高める――。文部科学省が作成した副読本に沿って小中高の教育現場で放射線教育が実施される中、福島大学の准教授らでつくる研究会がこのほど「偏重した情報を鵜呑みにしない力を育てよう」と、独自に放射線副読本をまとめた。
■「原子力ムラのウソ見抜けなかった責任」
「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本」は全18ページ。文科省が昨年10月に作成した副読本について「東京電力福島第一原発事故に関する記述がほとんどなく、放射線が身近であることを強調し、健康への影響を過小に見せるなどの問題点が指摘されている」とした上で「人工放射線は身近にない」「低線量被ばくの影響は解明されていない」などの視点から解説を行う。
出色は「放射線の影響を心配する必要はない」とする「楽観派」の見解に対する吟味だ。例えば「放射能は正しく怖がることが大切」とする意見については、「低線量被ばくの影響は解明されておらず、解明されていない以上『正しい』怖がり方は論理的に成立しない」と明快に喝破する。
研究会で今回の副読本を取りまとめた福島大学の後藤忍・准教授は「(東電原発事故が起きたのは)原子力ムラはもちろん、安全神話を作り出した社会、ひいては原子力ムラのウソを見抜けない私たちの責任でもある」と語り、物事を批判的に捉える力を養う重要性を訴える。
■福島県教委「いろいろな考え方ある」
副読本は反響を呼び、教育現場などに2千部が配布され、ネット上でも公開されている。
福島県教委では昨年11月以降、県内の小中学校約700校の教員を対象に文科省副読本に沿った放射線教育を行うよう指導を実施。同副読本には東電原発事故の経緯や被害の実態に関する記述が全くなく、県教委が「副読本から逸脱するな」「原発の是非に触れるな」などと教員に対して指導したことなどが報じられている。
福島県教委の担当者は本誌取材に対して、研究会の副読本について「(放射能をめぐっては)いろいろな考えがある」と話すにとどまった。(オルタナ編集部=斉藤円華)2012年4月18日