「東京で大地震が発生したら、私は生き延びる自信がない。恐らく『人』が最大の敵となる。地方に逃げる方がいい」
岩手県陸前高田市のNPO法人「陸前たがだ八起プロジェクト」事務局長の蒲生哲(がもう・さとる)さんが20日、都内で講演を行ない、地域社会の結束力の弱い東京では災害に立ち向かえない、と警鐘を鳴らした。
講演は日本フィランソロピー協会が主催する「東北応援チャリティーパーティー Made in Tohoku」の一環。会場となった品川の日本マイクロソフト本社には約200人が詰めかけ、三陸地方の食材を使ったオードブルや東北地方の地酒に舌鼓を打ちながら蒲生さんの話に耳を傾けた。
蒲生さんによれば、陸前高田市では今でも近隣住民の結束が強く、今でも火災などが発生した場合は、必ず炊き出しが行われるという。また日常的に「申し訳ない」を意味する「もっけ」という単語が頻繁に使われ、自分より他人を優先する風習が色濃く残っている。震災発生時の混乱の中でも、炊き出しでは食料は老人と子どもが優先された。
過去にも地震や津波の被害にあってきた陸前高田市では、保育園や小学校でも授業の一環として津波のメカニズムや避難方法を学び、津波や火事を想定した避難訓練を行なっている。また、過去の被害に関しても口頭で伝承され続けている。それにも関わらず、東日本大震災では人口の10分の1にあたる2066人が死者行方不明者となった。
恐ろしかったのはボランティアに混じり、地域に紛れ込んだ火事場泥棒だという。「消防団の話では、薬指が切断されていた女性の遺体もあった。津波は人の心まで流し去ってしまった」と悲しそうに語った。蒲生さんも混乱が収束し始めた6月までは、医療関係者と自衛隊以外のボランティアは受け入れなかった。
「被災体験を1人でも多くの人に伝えることが自分の使命。被災者の悲しみを無駄にしたくない。どんな人にも起き得ることとして万が一の時に備え、発電機などの用意や避難場所・集合場所を確認するなど準備をしてほしい」(オルタナ編集部=赤坂祥彦)