毎日のように「ステークホルダー・ダイアログ」を開く英国企業――下田屋毅の欧州CSR最前線(12)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

125年を超す歴史を持つ英国の老舗スーパーマーケット「マークス&スペンサー」(M&S)。英国内はもちろんフランチャイズ店を含め世界48カ国に700店以上を展開する巨大チェーン店だが、実はこの会社のCSR活動は、欧州だけでなく世界的規模で評価が高いことは日本ではあまり知られていないようだ。

M&Sは「エシカルコーポレーション」の企業責任に関する調査(2011年)で「リーダーがイメージする最も持続可能な企業」の一つに選ばれ、そして英市場調査会社のイプソス・モリの2011年調査においても、M&Sのサステナビリティ報告書は「世界で一番読まれている報告書」だとされた。

2012年4月に発表された2012年CRRA世界CSR報告書大賞では、M&SのCSR報告書は総合部門3位、関連性とマテリアリティ(重要性)部門1位、開示と誠実さ部門1位の評価も受けている。

M&SはCSRについてのコミットメントを「プランA」というネーミングで打ち出し、 「Plan A. There is no plan B(プランA、プランBはありません)」というキャッチフレーズでも認識されている。

「プランB」とは米環境学者レスター・ブラウンの著書でも有名な表現で、「代替案」という意味だ。M&Sにとっての環境・CSR政策は代替案ではなく、王道を行く本気の取り組み「プランA」であるという同社の決意を表していると言えよう。

M&SがCSR報告書を作り始めたのは2004年で、決して早くはない。「プランA」は、2007年に同社が打ち出し、100のコミットメント(約束)を、5年間で達成することをステークホルダーに約束したものだ。

「世界で最も持続可能なスーパーマーケットになる」という究極の目標を設定して、コミットメントを180に拡大、2015年までに到達することをステークホルダーに提示している。

プランAは下記の7つの大きな柱から成り立っており、これらの柱の下に、20の目的とそれぞれ180のコミットメントが決められている。

1)我々の顧客をプランAに巻き込む 2)プランAをつくる、どのように私たちはビジネスをしていくのか 3)気候変動 4)廃棄物 5)自然資源 6)フェアパートナー 7)健康と福祉

M&Sは既に180個のコミットメントのうち95個を達成、77個が計画どおり進んでおり、7個が計画より遅れ、1個が休止している。このようにコミットメントをしたものをしっかりと自己評価して、達成を報告するだけでなく、できていないもはできていないとはっきりと報告している。

その中で重要なのは、KPI(重要業績評価指標)が含まれていること。このKPIを設定をすることにより、評価を確実に実施することができる。欧州でCSRに関して取組が進んでいる企業は、KPIの質をどのように高めていくかということを考えている。

M&Sは、このプランAを達成するために、ステークホルダーとの対話そして、7つの柱の1つ目に代表されるように、このコミットメントを達成する為にステークホルダーと協働して達成することを明確に打ち出している。

同社のサステナビリティマネージャーであるローランド・ヒル氏は「ステークホルダーとのコミュニケーションは、CSR報告書を通じてと考えると年1回ということになるが、プランAを遂行する上で、コミットメントに関わるそれぞれのステークホルダーとのコミュニケーションは非常に重要であり、日々継続して行っている」と説明する。

以前、英国を中心に欧州で薬局のチェーンを展開するブーツ社のイアン・ブライスCSR部長も同様に「ステークホルダーとの対話はほぼ毎日、日々違う拠点で、違うステークホルダーと対話をしている」と話していた。両社ともステークホルダーとの対話が非常に重要だということがわかる。

M&Sは、顧客と連携して、フェアトレード商品の開発を進めたり、NGO・NPOとの連携をしっかり図って、プランAを遂行している。NGOはそれぞれの分野の専門家であり、M&SのCSR活動をサポートしてくれる重要な協力者だ。M&Sは、WWFやオックスファム、ユニセフなど、12のNGO・NPOなどの団体と現在協働している。

自社のステークホルダーを特定し、そのステークホルダーとの対話、さらにエンゲージメントを進めることは、CSR戦略の要だ。

特に、日本企業のステークホルダー・ダイアログはCSR報告書への掲載用に年1回しか開かない企業が多いが、M&Sもブーツも、毎日のようにダイアログを開いているという。これらの事例を参考に自社の取り組みを強化して頂けたら幸いだ。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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