『変化をデザインする会議』
第2回アジア太平洋グリーンズ・ネットワーク(APGN)大会参加報告
スズキヨウ(エコロ・ジャパン)
緑の党の運動に参加する国々が、第2回アジア太平洋グリーンズ・ネットワーク(APGN)大会のため、台湾の台北に集まった。筆者は、本会議に先立つ4月29日から会議最終日の5月2日まで、日本の政策ネットワーク『エコロ・ジャパン』のAPGN取材協力委員として現地入りした。
グリーンズ、台湾に集う
寒い春に凍えた日本を離れ飛行機で3時間、台湾では亜熱帯のむっとした湿気が迎えてくれた。本会議の前日、4月29日には、35歳以下の加盟国メンバーによるアジア太平洋・ヤング・グリーンズ・ネットワーク会議が開催された。2005年の京都会議以降、やや活動が停滞していた若手組織を活性化するため、組織構造を建て直しネットワークを拡大していくための方策を話し合う目的があった。若者といっても、国家プロジェクトに関わっている活動家やNGOの代表なども多く、その議論の様はシニアに勝るとも劣らない。
参加者が自由に動く会議
いよいよ本大会の始まった4月30日。開会式の見所は、ボブ・ブラウンの挨拶とブヌン族の伝統芸能だった。オーストラリア上院議員で緑の党のヒーローとも言われるボブは、党の歴史と成長を1972年のタスマニアでの発足からひも解いた。続く台湾先住民族のブヌン族は、圧倒的な唱和の美しさと、長老が地球に捧げる儀式によって参加者の心を引きつけ、ポジティブな意識の方向性を決定付けたように思う。
開会式ののち参加者は2つの部会に分かれた。一つは加盟国代表による事務会議、もう一つは参加者の
自由なテーマ提案型のディスカッション・グループである。筆者は後者に参加し、この日はじめて、オープン・スペース・テクノロジーと呼ばれる会議形式を体験した。参加者の主体的移動を意味する「二足歩行の法則」が強調され、自由参加・自由退席が奨励されるという面白さがある。
参加したのは、ネパール緑の党が提案した「自然資源の保全と管理に関する話し合い」のグループ。話題の中心は、ネパールやインド周辺で起こっている違法な森林伐採だった。薪や耕作、建築など生活や自治体レベルでの過剰伐採から、大量輸出取引といった国レベルでの違法伐採など、深刻な状況が浮き彫りになった。一部の国では政府が違法な伐採を支援しているらしい。法律と秩序を復権・回復するとともに、一般市民の意識を高める教育プログラムの必要性が議論された。また、良い事例としてネパールのコミュニティ・フォレストの活動や、エクアドルのアグロ・フォレストリーの事例も紹介され勇気づけられた。さらに日本の材木貿易が各国にもたらす影響や、国内の林業衰退と森林保全に関しても深く考えさせられるセッションとなった。
進む会議のグリーン化
オープン・スペースの手法では参加者をミツバチや蝶にたとえ、あちこちを自由に歩き回って蜜を吸ったり(情報を吸収し)、受粉したり(議論に加わったり)、ふわふわと留まらない(外から観察する)ことも奨励している。なぜならその行為が直接的・間接的に会議を活発にするからだ。実際にミツバチになってみた筆者は、パーマカルチャー(永続可能(パーマネント)な農(アグリカルチャー)と文化(カルチャー)。1970年代にオーストラリアで始まった生活や環境のデザイン体系)の展示が会場内にあると聞いて、寄り道してみることにした。案内してくれたのは、会議の運営委員でありパーマカルチャーの専門家でもあるタミー・ターナーだ。
タミーたちは、会場にエディブル・ランドスケープ(食べられる風景)を作ることにした。会場施設は、台湾における農業者組織の会議場であり加盟者は3万人を超えるという。まず、会場の環境や資源を綿密に調べ、最も機能的で効果的な資源配置のデザイン・マップを作った。その結果、会議2週間前には玄関前にハーブや野菜・果物のガーデンが備わり、守衛所の横に雨水集水施設と蛇口ができ、中庭の隅にはコンポスト3層が準備された。誕生して2週間のガーデンでは、すでにたわわな桑の実が食べられるのを待っていた。
彼女は「会議のグリーン化」に携わった中心的人物でもある。参加者全員に配られた台湾産の竹のコッ
プの話は画期的だ。これは先住民族出身のデザイナーが都会から出身地に戻り、その復興のために地元素材を使った商品デザインを手がけているプロジェクトだ。竹コップは手になじみがよく、デザインも素朴ながら洗練されている。できればお土産として買って帰りたいほどである。このほか、台湾産オーガニックコットンのハンカチ、そしてリユーズの会議書類用バッグなどのプレゼントを通じて、会議参加者はたくさんの紙コップや使い捨てのティッシュや紙袋を節約したことになる。このほか、交通の便のよい会議場を選んだこと自体も、参加者が徒歩または公共交通機関を使って来るための工夫である。また、会議参加者のためのランチやディナーは、農薬や化学肥料は使っておらず、たくさんの農家の協力のもと非常に充実した時間となった。
自然に根ざしたアース・デモクラシーを
翌5月1日午前中の全体セッションでは、ツバル国大統領イエレミア氏とインドの環境活動家ヴァンダナ・シヴァ博士の両名のスピーチのほか、参加各国から気候変動の緩和策と適応策について8事例が提供された。コペンハーゲン気候変動会議では十分な発言の機会さえ与えられなかったツバルの現状や、IPCCを糺弾するマスコミに対して「間違いのない科学はない。あるのは実証への丁寧な努力の積み重ねである」というシヴァ博士の言葉が印象に残った。また、ヒマラヤの現状など気候変動に関する事例の多様さや深刻さを聞くにつけ、シヴァ博士の提唱する地球と生命に根ざしたアース・デモクラシーが、ローカルとグローバルの両方で起こらなければならない、ということを痛感した。
午後からは小会議室に分かれてのワークショップである。水素発電に関わるNGO「R水素」のプレゼンテーションや「気候変動とサード・ポール(第三の極)・ヒマラヤ」といった話題にも興味をひかれつつ、「モダン・ダイレクト・デモクラシー(現代直接民主主義)」に参加した。主催者はInitiative and Referendum Institution (IRI)という国際シンクタンクである。 彼等はEU圏内、さらに世界レベルで、すべての市民が政治の意思決定に関わることができるしくみを進めようとしている。例えば選挙では、政党や政治家個人への投票ではなく、政策単位での投票を可能にしたいということだ。政党同士で足を引っ張り合い、本来必要な政策が進まない政治に不満を覚える日本人には非常に魅力的に聞こえる。ただし個人的には、西洋的価値観や歴史を経て育てられて来た民主主義がアジアで花開くためには、より実践的な民主主義やディスカッション教育は必須の準備に思われた。
地球規模で「公正な配分」を進めるために
「FAIR SHARE」=公正な配分。これが、アジア太平洋グリーンズ国際会議の今回のテーマだった。誰が、何を、どのように配分することが「フェア」と言えるのか。それはなぜ必要で、いつまでに達成すべきなのか。この具体的な内容については、アジア太平洋地域の中では、まだコミュニケーションが始まったばかりのように感じられた。日本で風化しつつある問題が、アジア各国で起こっているようにも見受けられたし、解決方法についても、同じグリーンズの中でも手探り状態だ。しかし全体として、非常に希望に満ちて心の通い合う瞬間にたくさん出会った会議であった。
今回の会議場に取り入れられたパーマカルチャー・デザインの考え方には「プロブレム・イズ・ソリューション(問題とはすなわち解決である)」という言葉がある。私たちがこの会議に集まったのは、まさしくこの転換を促進することにあると思う。「公正な配分」とは、ある一時点の断面の切り取り(名詞)だけでなく、恒常的な「SHARING=共有している」という動詞の形をとるべきだろう。「フェア=公正さ」は、問題と解決を共有できるメンバーによってしか承認されないのだから。
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より詳しい会議の全体報告については、以下のサイトをご参照ください。
持続可能な社会のための政策ネットワーク「エコロ・ジャパン」
第2回 アジア太平洋グリーンズ・ネットワーク大会(APGN2010)・参加報告
http://yokohama.cool.ne.jp/imashu/apgn2010.htm
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筆者プロフィール:スズキヨウ 山梨県の自然学校でネイチャー・インタープリターとして働いた後、スウェーデンのルンド大学院LUMESへ留学。環境学とサステナビリティ・サイエンスの修士号取得後、2008年に帰国。現在は大学の研究員を務める傍ら、自然体験ワークショップや『感興想造』をテーマにイベントや講演などの企画運営を行う。最近の関心事は、パーマカルチャーやトランジション・タウン。ブログ http://plaza.rakuten.co.jp/botam/