サーフィンと経営。一見、なんの関係もないかのように見える、この2つをこなす人たちがいる。
草分けの一人は米カリフォルニア州に本社を置くアウトドア衣料・用品メーカー「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナードだ。
彼の自伝的経営書『社員をサーフィンに行かせよう』(初版2007年)は発行元の東洋経済新報社がこのほど増刷を決め、11刷のロングセラーになった。日本でも、イヴォンに影響を受けたサーファー経営者が続々と誕生している。
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環境配慮型の廃棄物ビジネスを展開する「白井グループ」の白井徹社長は、この本を読んでサーフィンを本格的に再開したという。今では平均して週に2回ほど由比ヶ浜(神奈川県)や南房総(千葉県)に通う。
パタゴニアのマーケティング手法を学び、ユニホームもパタゴニア製にそろえた。戦略会議にもサーフィン研修とビーチヨガを取り入れた。「サーフィンには柔軟な発想を喚起したり、世代間の壁を取り払う効果がある」と語る。
経営者としては、サーフィンを通して「周囲と融合する大切さを心身で知り、謙虚になった。また、シンプルに本質のみを追求する癖が付き、虚構に惑わされなくなったようだ」という。
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産業用太陽光発電システムの施工などを行う「コモン」の飯田佳昭社長は、17歳でサーフィンを始めた。週1回のペースで大洗や鹿島(茨城県)に出かけ、「やるべきことをやれば時間を自由に使える」というイヴォン氏に共感している。
解放感のあるオフィスも、パタゴニアの環境負荷の少ないオフィスと執務スタイルを参考にした。「働く環境を整備して社員のモチベーション向上を図りたい」という。
飯田氏は、積極的に環境保護活動をやっていた「サーフィンの師匠」にも影響を受けた。「その師匠が毎年仕切っているプロサーファーの大会で消費する電力を、いずれは太陽光で賄いたい」と抱負を語る。
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非木材紙など、エコ素材16種類をそろえてエコ名刺作成サービスを提供している「日新堂印刷」の阿部晋也社長は、イヴォン氏が立ち上げた「1%フォー・ザ・プラネット」に加盟した。エコ名刺の売り上げの1%を環境保護団体に寄付している。
10代前半からサーファーだった阿部氏は、北海道在住にもかかわらず、シーズン中は月3回ほど苫小牧などの海に入る。サーフィンを「地面(水面)が常に動く唯一のスポーツ」と表現し、「同じチャンス(波)は二度と来ない。経営や人生と同じ」と語る。
阿部氏は、経営とサーフィンの共通点として、「たくさんの失敗を経験することが、上達への一番の近道」「いくら技術力があっても、コミュニケーション能力がなければ土俵にも上がれない」「見えない波を察知する第6感を研ぎ澄ますことが必要」「大自然の中で生かされていることへの感謝の気持ちが大切」といった点を挙げた。
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独創性あふれる子ども服ブランド「ブーフーウー」の岩橋麻男社長も、サーファー経営者だ。20年以上のブランクを経て海に戻った今は、南房総(千葉県)で「無の状態」になって波に乗る。「波乗りは、すべてを浄化してくれる。これからは、どんなに忙しくても続けたい」と話す。
「自然からのメッセージを体感」しては、「地球に生かされていることへの感謝の気持ち」を子ども服のデザインに反映している。天然染料を使った「新万葉染め」のキットを商品化し、環境負荷の少ない染色のワークショップも開催している。
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なお、広範囲の海岸が被災した東日本大震災では、いずれのサーファー経営者も大きな影響を受けたと語った。中でも阿部氏は、原発事故に言及し、「経験から学んだことを未来へ引き継いでいく使命がある。地球上に無いものを作ってはいけない。原発はいらない」と強調した。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)