企業のサプライチェーン全体の環境影響が問われている。世界的企業はサプライチェーン全体の二酸化炭素(CO2)排出量を算出し、社外への報告を始めた。サプライチェーン全体が自然資本に及ぼす影響の評価を始めた先進企業もある。
英ロンドンに拠点を置くトゥルーコスト社は、サプライチェーンの環境分析で豊富な実績があり、ドイツのスポーツ用品メーカー「プーマ」の環境損益計算書(EP&L)を作成したことで有名だ。
プーマのサプライチェーン全体を対象に事業活動で使用や排出した水、温室効果ガス、土地利用、大気汚染、廃棄物それぞれの環境影響を評価。結果を費用に換算すると合計1億4500万ユーロだった。
内訳を見ると、プーマと直接取引がない4次サプライヤーに半分以上の8300万ユーロが費やされていた。製品の材料に牛皮が使われており、牛のエサとなる穀物の栽培に多くの水と土地が使われていたためだ。
プーマはサプライチェーンの最上流、つまり一番遠いところに大きな環境負荷があることが分かった。来日したトゥルーコスト社アカウント・ディレクターのトム・バーネット氏によると「プーマは2020年までに皮革の代替品を作ることを決めた」と言う。
このようにサプライチェーンの環境負荷を測ると見えなかったリスクを発見できる。また、普段は評価されない水や土地利用など自然資本への影響も金額にすると大きさをとらえやすくなる。
日本企業の生物多様性保全を支援するレスポンスアビリティ(東京・品川)も、自然資本への影響を金額換算するトゥルーコスト社の評価手法に着目。このほど業務提携をすることを決めた。
2011年秋、「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」などによって、サプライチェーン全体のCO2量を算出するルール「スコープ3基準」が作られた。日本の一部企業でもサプライチェーンのCO2量の算出が始まったが、自然資本への関心は低い。
自然資本である生物多様性が失われれば、木材や農作物を加工する事業は立ち行かなくなる。水資源が枯渇すれば、生産に水を使う工場を操業できなくなる。しかし自然資本は適切に評価されず、消費され続けている。レスポンスアビリティの足立直樹代表は「いまのままでは持続不可能」と警鐘を鳴らす。
日本企業は調達指針でサプライヤーに環境配慮を呼びかけている程度。サプライチェーンの環境影響について「求められる以上の影響を公表すると余計な誤解を招くだけ」という消極的な声も聞かれる。
企業活動がグローバル化する中、NGOや海外格付け機関はサプライチェーンへの監視を強めている。持続可能性にも目を向けると評価しないリスクの方が大きいと思われる。(橋木公)