記事のポイント
- COP28は成果文書を採択し、「化石燃料からの脱却」を合意した
- 「廃止」に近い「脱却」で意見がまとまったのはCOPでは初だ
- だが、法的枠組みはなく、化石燃料の拡大につながる余地も残した
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は12月13日、成果文書を採択し、今後10年で化石燃料からの「脱却を加速する(transition away)」ことで合意した。これは英語でも日本語でも不思議な用語で、「意味不明」だ。完全な「脱却」に向けた法的枠組みやタイムラインなど明確な道筋すら文書に入らなかった。国際環境NGOは、化石燃料の「拡大」につながる可能性もあると指摘した。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■「化石燃料の段階的廃止」に約100カ国が賛同
アラブ首長国連邦のドバイで開いたCOP28が会期を1日延長して13日に閉幕した。延長した理由は、石油・ガス・石炭などの化石燃料の扱い方を巡り、各国で意見が割れたからだ。
当初、成果文書案には、「化石燃料の段階的廃止」が盛り込まれていた。この文書案には、欧州を中心に約100カ国が賛同した。COPに参加した国の約半数に及ぶ。
だが、サウジアラビアなど石油を産出する国などが反対し、会期中にはまとまらなかった。13日に採択した成果文書では、「化石燃料の段階的廃止」は取り消され、「公正かつ秩序だった公平な方法でエネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図り、2050年までに(温室効果ガス排出の)実質ゼロを達成する」となった。
「化石燃料からの脱却」という言葉が成果文書に入ったのは初だ。世界の気候変動対策の進捗状況を評価する「グローバル・ストックテイク」の決定を採択できたことが要因だ。2030年に再生可能エネルギーの設備容量を3倍に拡大することも盛り込んだ。
■環境NGO、「抜け穴もあり、実現への実効性もない」
今回のCOP合意を歓迎する声もある。だが、化石燃料からの脱却に向けて、どのような資金支援をもとに、どう公平に進めるかについて不明確なままだ。国際環境NGOからは、抜け穴もあり、実現への実効性もないという声も出ている。
「脱却」に向けた法的枠組みやタイムラインなど明確な道筋は文書に入っていない。「化石燃料の段階的廃止」に反対していた国が合意した背景に、「各国の事情に合わせて、方法は自由に決められる」という文言があるという。
国際環境NGO 350.orgのメイ・ブーヴィ事務局長は、「石油や化石ガスの拡大につながる『目くらまし』を含んでいる」と指摘した。
「目くらまし」とは、化石燃料インフラの寿命を延ばす革新的技術などを指す。具体的には、二酸化炭素を分離・回収し、地中などに貯留する「CCS」だ。
日本政府の「ゼロエミッション火力」戦略でもこの「CCS」の利用を目指す。石炭とアンモニアの混焼で火力発電を稼働し、排出した温室効果ガスをCCSで貯留する計画だ。だが、アンモニアは燃焼時には温室効果ガスを排出しないが、製造時に排出する。
革新的技術を導入するまでのタイムラインにも課題がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表したシナリオでは、パリ協定で定めた「1.5℃目標」を達成するには、2025年までに温室効果ガス排出量を減少させる必要があると指摘した。2025年までにこれらの革新的技術の導入は難しい。
COP28に参加した350.orgの伊与田昌慶ジャパン・キャンペーナーは、「COP合意は、原子力や、化石燃料インフラの寿命を延ばすCCSといった危険な目くらましの余地を残している」と話した。
日本政府には、今後見直す「エネルギー基本計画」で化石燃料の段階的廃止を明言し、地域主導の再生可能エネルギーを支援するよう訴えた。