例えば中指が鍵盤に触れているのに薬指が触れているように知覚してしまうということが起こる。体でなく、脳による問題なのだ。また、楽譜をそらで弾けるようにするためには、暗譜しなければならないが、音楽家は記憶を蓄える脳が大きくなっているという。間違って鍵盤を叩いたとき、一瞬の判断でその音が小さく聞こえるよう力を弱めていることや、手をしならせるようにする弾き方はエネルギーを節約するための技だとわかる。
そのほか「音楽教育はIQ向上に役立つか」「確実にうまくなる練習方法は」「感情を込めて弾くとはどういうことか」といった、普通の人が疑問に思っていることを科学的な検証を通して解説していて、興味深い。
古屋氏はハノーファー演劇音楽大学で研究しピアニストを夢みていたが、不調により断念した経緯がある。
「ピアノを弾く喜びや素晴らしさを知ることで、音楽とより良い関係が築いてもらえれば」と願い、ピアニストについて科学が解明したことをより多くの人に知ってもらうことで、「根性と忍耐の不合理な練習で、心身を痛めないようにしてほしい。ピアノを弾く人たちの問題解決の一助になりたい」と話している。ピアノや楽器を楽しむ人に必須の書だ。(オルタナ編集部=独ハノーバー・田口理穂)