■オルタナ76号「ジェンダードイノベーション」特集から
2010 年代半ば以降、「LGBT」という言葉が急激に認知されるようになり、今や大企業のうち半数程度は性的マイノリティに関して何らかの施策を行っている状況だ。LGBTQ+対応は、企業にとっては機会にもリスクにもなり得るが、具体的なイノベーションにはどうつながっているのだろうか。(一般社団法人fair代表理事・松岡宗嗣)

松岡宗嗣(まつおか・そうし)
1994年愛知県名古屋市生まれ、明治大学政治経済学部卒。HuffPostや現代ビジネス、Forbes、Yahoo!ニュース等でLGBTに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等で多数研修や講演を行う。2015年、LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」発起人。NHK「あさイチ」、日本テレビ「NEWS ZERO」、AbemaTV「Abema Prime」、などメディア出演多数。
企業が同性パートナーを持つ職員に対し結婚休暇などの福利厚生を適用するというニュースが、珍しいものではなくなってきた。
2015年と19年に行われた全国意識調査を見ると、「同僚が性別を変えた人だったら嫌だ」と答えた人の割合は、特に40―50代男性管理職層の減少が顕著で、15年では55.2%と過半数超えだったところ、19年では37ポイント減り、18%に下がった。この間の報道やメディアコンテンツ、または各企業での研修などが影響している側面もあるだろう。
ハラスメント防止、心理的安全性の向上、離職防止、優秀な人材の採用、PRやマーケティングにおける「炎上」の防止など、LGBTQ+に関する施策を行うことのメリットは各所で指摘されている。では、具体的なイノベーションにどうつながっているのか。
■KDDIが日本初の「ファミリーシップ申請」
「ジェンダードイノベーション」(※)は、性差に基づく分析を用いて発展につなげていくことをいうが、「女性」はもちろん、性的マイノリティも含めた多様なジェンダー・セクシュアリティの視点がかかわってくる。
※「ジェンダードイノベーション(Gendered Innovations)」とは、科学・技術分野の研究開発、政策、ビジネス、まちづくりなどの幅広い分野で、生物学的性別、ジェンダー(文化・社会学的性別)、交差性(インターセクショナリティ:複数の要素の交差性の視点)に考慮した分析を行うことで、課題や機会を発見し、イノベーションを創出するという概念。2005年に、ロンダ・シービンガー米スタンフォード大学教授が提唱した。
性の多様性の視点を活かしたイノベーションは、この約10年のLGBTQ+をめぐる企業の取り組みのなかでもすでに生まれてきているといえるかもしれない。
例えば、KDDIは20年に「ファミリーシップ申請」を日本で初めて導入した。同性パートナーの関係だけでなく、その子どもも含めて家族として住宅手当や育児休職などの制度が適用されるというものだ。導入のきっかけは当事者社員の問い合わせだったという。
その後、兵庫県明石市が取り入れるなど制度が自治体へと広がっていったことも画期的だが、性的マイノリティだけでなく、異性の事実婚カップルが利用するケースもある点に、既存の婚姻とは異なる家族制度の可能性を広げたという見方もできる。
近年、埼玉県内の男性トイレにサニタリーボックスを置く動きが広がっている。当初は膀胱がんなどから、尿漏れパットやおむつを必要とする男性のために設置されたが、結果的に月経のあるトランスジェンダー男性からも設置を歓迎する声が届いたという。
ジェンダーと疾患や障がいに関する複数の視点が交差し、結果的に想定とは異なる層の生きやすさにもつながった事例といえるだろう。
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■企業も声上げ、社会制度の変革を
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