記事のポイント
- 国連「ビジネスと人権」作業部会は、訪日調査の最終報告書を公表
- 国家人権機関の設立や人権デューディリジェンスの義務化を求めた
- 告書は、6月に国連人権理事会に提出する
国連「ビジネスと人権」作業部会は5月28日、訪日調査の最終報告書を公表した。同作業部会は、独立した国家人権機関の設立や人権デューディリジェンスの義務化を求めた。報告書は、6月に国連人権理事会に提出する。(オルタナ副編集長=吉田広子)

国連ビジネスと人権の作業部会は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)のもと、世界各国で調査を行っている。
UNGPsは、2011年に国連人権理事会で合意した国際基準だ。国の人権保護の義務だけでなく、企業も人権を尊重する主体として、人権に悪影響を引き起こすこと、助長することを回避し、影響が生じた場合は対処することなどを求める。
同作業部会は、2023年7月24日から8月4日まで日本で調査を行った。その調査内容をまとめたものが、今回の最終報告書だ。報告書が指摘した日本の主な課題は次の通りだ。
(この続きは)
■独立した国家人権機関が存在しない
■ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)の不足
■人権デューディリジェンスの実効性
■気候変動やPFASなど環境問題への対応
■アニメやエンタメ業界の労働者の権利
・独立した国家人権機関が存在しない
被害者が救済を受けるための障壁として、訴訟手続きの長期化や、人権問題に関する裁判官の知識不足などがある。日本には、国連指導原則を効果的に推進するための独立した「国家人権機関(NHRIs)」が設置されていないため、被害者が効果的な救済を受けられない。
・ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)の不足
日本の労働市場では、女性、高齢者、子ども、障がい者、先住民、マイノリティ、外国人労働者、LGBTQI+など、リスクのあるグループに対する差別やハラスメントが依然として存在し、機会の不平等が続いている。
特に、女性や外国人労働者は、職種や賃金面で不平等な扱いを受けているケースが多い。LGBTQI+に対する差別も深刻で、職場環境や社会全体における差別とハラスメントを問題視した。
・人権デューディリジェンスの実効性
日本政府は、22年9月には「人権尊重ガイドライン」を策定したものの、法的拘束力はなく、企業の自主的な取り組みに委ねられている。多くの企業(特に中小企業)は、UNGPsに対する理解が不足し、人権デューディリジェンスの実施が進んでいない。政府は、人権デューデリジェンスの義務化を検討する必要がある。
・環境問題への対応
気候変動対策やPFAS汚染など、事業活動が環境に与える影響に対する意識と対応が不足している。環境問題は、人権と密接に関連し、企業は、環境への影響を考慮し、持続可能なビジネスモデルを構築する必要がある。
・労働者の権利
過労死、外国人労働者の搾取、セクシャルハラスメントなど、労働問題が依然として存在している。特に、外国人労働者に対する搾取や、アニメ業界における過酷な労働環境などは、深刻な問題だ。アイドル業界では、プロデューサー、広告主、エージェントのあらゆる要求に応じることを義務付ける契約に強制的に署名させられている。労働者の権利を保護するための法律の強化や、労働環境の改善が必要だ。