トランプ再選・パリ協定離脱でも、世界の脱炭素は後退せず

記事のポイント


  1. 米大統領選でトランプ候補が再選すれば、反ESG政策が進む可能性が高い
  2. そうなっても、世界の気候変動対策に与える影響は限定的だろう
  3. インフルエンスマップの細井レイナ・シニアアナリストに展望を聞く

11月に迫る米大統領選においてトランプ候補が再選すれば反ESG政策が進むとされ、米国のパリ協定再離脱の可能性さえ囁かれている。「そうなっても日本を含む世界の気候変動対策に与える影響は限定的。企業はアドボカシーを通してさらに実効性のある脱炭素を求められる」。グローバルな独立系シンクタンク・インフルエンスマップの細井レイナ・シニアアナリストは、こう指摘する。(聞き手:オルタナ副編集長=長濱 慎)

反ESGの実態は米国の化石燃料セクターの抵抗に過ぎない

ESGの「E」への取り組みは世界共通の認識に

米国で巻き起こる反ESGは、一見大きなムーブメントのように思える。しかしその実態は、共和党の支持母体であり、グローバルな気候変動に抵抗する化石燃料セクターによる抵抗に過ぎない。まずは、この本質を理解することが重要だ。

実際に反ESGを掲げる19州のほとんどは、化石燃料セクターの影響力が大きい共和党が立法府となっている。トランプ氏が再選し米国のパリ協定離脱となっても、カリフォルニアをはじめ気候変動対策に積極的な州の取り組みが後戻りするとは思えない。

米国外に及ぼす影響も、極めて限定的と考えている。すでに、ESGの「E」に取り組むことは世界共通の認識で、企業の中長期的なリスクマネジメントの最優先事項になっている。反ESGによって脱炭素に向けた大きな流れが変わることはないだろう。

その背景には、パリ協定1.5℃目標という科学的なコンセンサスがある。これを達成しなければ企業活動どころか人間社会の存続さえ危ういという認識は、多くの機関投資家も共有している。

細井レイナ

インフルエンスマップ・シニアアナリスト兼日本エンゲージメントリード。ブリティッシュコロンビア大学アーツ学部人文地理学専攻卒。住友林業で地方創生や脱炭素の新規事業立案に携わった後2021年11月にインフルエンスマップへ。東京オフィスで金融機関や企業による政策関与の評価分析、ステークホルダーエンゲージメントを担当。

米国の反ESGと日本のGXの共通点

一方で、反ESGの動きが活発化する以前から世界ではグリーンウォッシュ(見せかけの脱炭素)が横行していた。ブラックロックを筆頭とする資産運用会社や邦銀3行を含む金融機関による、化石燃料セクターへの資金提供も続いている。

日本政府が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)についても、インフルエンスマップは2023年11月に公表したレポートで1.5℃目標と整合しないと結論づけた。

その理由として、カーボンプライシングの導入が遅く価格水準が不明確なこと、2030年の再生可能エネルギー導入目標が低いこと、水素・アンモニア混焼火力などの化石燃料に依存し続けることなどを挙げている。

GXがこうなったのは、温室効果ガス排出量が多い重工業セクター(化石燃料、電力、自動車、鉄鋼など)の声が反映されているからだ。これらの企業と業界団体は、政策提言等を通してGXに強く関与している。この構図は、化石燃料セクターが声を上げる米国の反ESGと似ている。

一方で金融、サービス、ヘルスケアなど、日本経済と雇用の70%以上を占めるセクターはほとんど関与していない。これらの中には、再エネ転換をはじめ気候変動対策に積極的な企業も多くも含まれる。それにも関わらず、本来は多数派であるセクターの声がGXの政策に反映されないという結果になった。

業界団体では、日本経済団体連合会(経団連)の関与が顕著だった。 経団連は「日本の経済界の意見を取りまとめる」と謳っている。しかしGXへの関与を見る限り、経済界全体でなく重工業セクターの利益を代弁しているとしか思えない。

もちろん経団連の会員企業は、重工業セクターだけではない。他セクターの会員も声を上げ、自分たちの主張をアドボカシーに反映させるべきだ。(談)

■企業はアドボカシーを通して脱炭素の推進を

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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