PFASを振動圧力で分解する新技術、スイス新興企業が開発

記事のポイント


  1. 有機フッ素化合物「PFAS」が世界的に問題になる中、スイス企業が処理法を開発した
  2. PFASを振動圧力で分解する技術だというが、効果には未知数の部分もある
  3. 米欧各国が規制強を進める中で、PFAS除去の技術開発に熱が入りそうだ

有害性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」は、国内でも問題視されつつあるが、欧州や米国では先行して規制が強化されている。スイスの新興企業は、PFASを振動圧力で分解する新技術を開発し、圧倒的な省エネルギーと低コストで注目を集める。同社に限らず、規制の強化によって、PFASを除去・分解する技術開発が各国で進みそうだ。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

スイス新興のオキシル社のファジャー・ムシュタック共同創業者兼CEO。
チューリッヒ工科大学で環境修復のためのマイクロ・ナノテクノロジーを研究し、
博士号を取得
(c) Daniel Kunz, danielkunzphoto.com, Adliswil, Switzerland

■PFASの除去は技術面・コスト面で大きな難題

水、油に強いPFASは、何十年もの間、便利な生活に欠かせない物質として私たちの生活に溶け込んできた。例えば、こげつきにくいフライパンや防水加工の衣服、化粧品、消火器、農薬、マイクロチップなど、さまざまな日用品にPFASが使われている。

有機フッ素化合物の総称であるPFASには、多くの種類があり、すべてのPFASが有害とは限らない。しかしPFASは、その難分解性ゆえに、除去は容易でなく、「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や環境の汚染に加え、発がん性などの健康への悪影響も指摘される中、PFASをどう除去するかは、技術面・コスト面でも大きな難題となっている。

英国の研究機関であるウォーター・インダストリー・リサーチ(UKWIR)は、同国の下水からすべてのPFASを除去するのに必要な費用を、210億ポンド(約4兆2千億円)と試算する。

しかし、仮にそれだけの巨額な費用を支払っても、現在、利用可能な技術で、有効に除去できるかどうかは疑問が残る。

■PFASは「破壊」されなければ、残留する

PFAS除去の方法は一般に、「吸着」「分離」「破壊」の3つに大別される。

しかし「吸着」と「分離」は、廃水からPFASを除去できても、PFASの根絶にはつながらない。

例えば、粒状活性炭(GAC)を使用して廃水からPFASを「吸着」しても、残った汚染された炭素は廃棄せねばならず、仮にそれを埋め立てれば、土壌や地下水に浸透して汚染が広がってしまう。

UKWIRの研究者は、「PFASは破壊しなければ、結局は、土壌や空気を通して循環し続ける」と指摘する。

2021年、UKWIRは「焼却」がPFASを永久破壊する唯一の方法だとの見解を出した。しかし永久破壊するには、1000℃以上の高温で焼却しなければならず、そのエネルギー消費量は膨大だ。

また、焼却によって空気中に抜け出た粒子が、大気を汚染するとの研究も出るなど、「焼却」が完全な解決策なのかどうかにも疑問が残る。加えて、「テトラフルオロメタン」や「ヘキサフルオロエタン」といった、温室効果ガスを排出する可能性も指摘されている。

PFAS破壊で注目を集めるスイス発スタートアップ
■省エネの「PFAS破壊テクノロジー」
■「最後の一滴まで、水質汚染からの回復・保護を目指す」

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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