記事のポイント
- パリ五輪では、ペットボトルの持ち込み禁止など環境対策に力を入れる
- 競技大会のカーボンフットプリントを50%にし、「持続可能性」に取り組む
- 今後の大規模イベントのサステナブルな運営の参考になりそうだ
7月26日に開幕するパリ五輪では、競技大会のカーボンフットプリントを50%に掲げ、ペットボトルの持ち込み禁止、100%再エネ利用など環境対策に力を入れる。選手団や取材陣の「海外移動」に伴う温室効果ガスを減らすため、3D空間で競技会場を再現する「デジタルツイン」も活用する。3Dを駆使することで航空機移動を極力、抑える。パリの組織委員会で働く日本人スタッフに聞いた。(オルタナ副編集長=池田 真隆)

■12年ロンドン大会と比べてGHGを半減へ
パリ五輪が設定した最大の環境目標は、従来の大会と比べて温室効果ガス(GHG)排出量の半減を目指すことだ。これまでの一大会当たりGHG排出量平均は約350万トンだった。
パリ五輪では「150万トン未満」と意欲的な目標を掲げた。ロンドン五輪(2012年)の345万トンの半分以下だ。
目標をどう実現するのか。パリの組織委員会で働く日本人スタッフに聞くと、環境対策の柱は3つあるという。
一つ目は、ペットボトルの持ち込みを原則禁止したことだ。脱プラスチック対策の一環として、パリ市内の競技会場には持ち込みを禁止した。マイボトルを持参してもらい、会場内には給水場を設けた。

加えて、会場施設の電力は100%再生可能エネルギーで賄い、廃棄物ゼロを目指す。観客には、公共交通機関の利用を推奨する。会場に自転車で行きやすくするためサイクリングロードも各地につくった。
二つ目は、競技会場の新設を最小限に抑えた点だ。約95%の会場を、既存の施設か、仮設会場でまかなう。大会終了後は、地域住民が利用できる施設にする。
■デジタルツインで「下見」を減らす
最後の特徴は、「デジタルツイン」を駆使して脱炭素を軸に意思決定を下す点だ。デジタルツインとは、3D空間で現実世界を再現した技術を指す。
メガスポーツイベントの最大の排出源は、「国際移動」だ。選手団だけでなく、大会関係者は現地の下見を含めて、複数回通うことが通例だ。
従来大会と比べてGHG排出量を半減するためには、下見の回数を減らす必要があった。そこで、活用した技術が「デジタルツイン」だ。
パリ五輪のパートナー企業である、英国のOnePlan(ワンプラン)社の技術を各国の関係者に提供した。
競技会場を3D空間で見られるだけでなく、気象データなどと掛け合わせた。時間帯によって、日陰が多い場所はどこにあるかなど、様々なシミュレーションができる。例えば、映像制作チームは、この技術を使うことで、現地にロケハンに行くことなく、カメラを置く場所を事前に把握することができる。
建設現場の脱炭素にも一役買っている。観光スポットであるエッフェル塔の横に仮設のビーチバレー会場を建てるが、開幕直前まで建設を始めなかった。観光に影響が出るからだ。

事前に工事関係者がデジタルツインで仮設の競技会場をイメージできていたので、工期が短くても問題が生じなかった。3D空間で細部まで見える化したことで、各部門間での話し合いがスムーズに進んだという。
■全スタッフの「環境負荷」を数値に
組織委員会の全スタッフに環境負荷を意識づけするため、日常生活のカーボンフットプリント(CFP)を算定できるアプリを使った。このアプリは、「クライメート・コーチ」という名称で、全スタッフのPC内に入っている。
移動や食事、消費などを通して、毎日どれだけ環境負荷をかけているのか、数字で見える化した。このアプリでは、脱炭素につながる「解決策」も提案する。環境負荷を数字で可視化できたことで、肉より魚を選んで食べるようになったスタッフもいるという。
このCFP算定アプリは、個人用とイベント用で分かれており、イベント用は一般にも公開している。フランス国内の他のスポーツイベント団体も利用できるようにした。