国連のグテーレス事務総長が2023年のCOP28 (ドバイ)で「地球沸騰化」と形容した通り、世界のあらゆるところで、観測史上最高の気温を記録したり、豪雨や干ばつ、山火事などの自然災害が激甚化し始めた。「地球沸騰化」をどう克服できるのか、東京大学の山本良一名誉教授に寄稿いただいた。(編集:オルタナ編集長・森 摂)
■ 地球気候は「非常事態」にある
2023年の世界の平均気温は観測史上最高の14.98℃で産業化前と比べて1.45℃上昇した。2024年はパリ協定の目標1.5℃を突破する最初の年となるかもしれない。
2023年6月から2024年4月までの11カ月連続で、毎月の世界の平均気温は観測史上最高を記録し続けている。一方、世界の海洋の平均表面温度は2023年3月中旬から2024年4月までの13カ月間、毎日観測史上最高を記録し続けている。
James Hansenらは2024年の世界の平均気温は産業化前と比較して1.6~1.7℃高くなり、パリ協定の1.5℃目標を突破する最初の年となると予想している。地球温暖化は加速しているのであろうか。
1970年から2023年の間に世界の平均気温は10年間あたり0.19℃上昇した。2009年から2023年の間ではこれが0.30℃となっており、地球温暖化が加速していることが分かる。
IPCCの気候モデルのアンサンブルでは2015年から2050年の間、10年間で0.2~0.4℃温暖化が進むと予想しており、最近の地球温暖化の加速は予想の範囲内であるとも言える。
ポツダム気候インパクト研究所(PIK)の最新の報告書では、気候変動による経済的損失は2050年までに年間38兆ドル、世界のGDPの19%に達すると予想している。世界の年間平均気温が産業化前より4℃を超えた場合の損失は60%に達するという。
2℃目標を守るためには年間2兆ドルの費用で済むとされており、経済的にもカーボン・ニュートラルを進めた方が割安である。
Lancet報告書によれば、世界中の人々が生命を脅かされるような気温に平均してさらされる日数は2022年に86日間であった。このままでは暑さによる世界の死者数は2050年までに5倍近くに達すると予想している。
1970年以降、気候変動については30万余りの学術論文が公表され、それに基づいてIPCCは第1次~第6次報告書を取りまとめ、科学者のコンセンサスとして現在の地球温暖化の主な原因は人間起源の温室効果ガスの大気中への放出であると結論づけたし。
さらに最近の報告書(Global Tipping Points Report、2023年12月6日)によれば地球気候システムの次の5つの気候ティッピング・ポイントが突破された可能性があると指摘した。
1)グリーンランド氷床崩壊
2)西南極大陸氷床崩壊
3)熱帯サンゴ礁枯死
4)北方永久凍土の突発的融解
5)ラブラドル海対流崩壊
近年の世界の異常気象(熱波、干ばつ、豪雨、森林火災など)は気候変動によって極端になっていることは多くのEvent Attribution研究から明らかにされている。
World Weather Attributionによると、「アフリカの角」(インド洋と紅海に接するアフリカ北東部)での3年間の干ばつに続いての大洪水で数百万人が食料不足に陥っている。
さらには2023年7月のヨーロッパ、北米、中国での広い地域での致命的な熱波、2023年9月のリビアで驚異的豪雨の後の3つのダムの決壊で3400人の犠牲者が発生したほか、カナダの山火事で1800万ヘクタールが焼失した(これまでの年間記録を1000万ヘクタール上回る)。
これらの激甚災害は明らかに人為的地球温暖化の影響が確認されるとしている。
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