記事のポイント
- 米国のカマラ・ハリス副大統領が今年11月の大統領選に名乗りをあげた
- 米民主党でハリスのランメイト(副大統領候補)が誰になるか注目が集まる
- 有力視されている8人の候補者を挙げた
カマラ・ハリス副大統領が2024年米大統領選に名乗りを挙げ、11月の投票日に向けてトランプ候補とのデッドヒートが確実ななか、民主党の「ランメイト」(副大統領候補)が誰になるか、注目が集まる。オルタナ編集部が8人の副大統領候補を挙げた。これまで有力視されていたウィトマー・ミシガン州知事は出馬を自ら否定したほか、ニューサム・カリフォルニア州知事は、正副大統領候補が同じ州の住民だった場合、その州での選挙人による票を放棄させる規定があるため、同知事が候補者になる可能性はない。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

- ジョシュ・シャピロ(ペンシルバニア州知事)
- アンディ・ベッシャー(ケンタッキー州知事)
- ティム・ウォルズ(ミネソタ州知事)
- マーク・ケリー(アリゾナ州選出上院議員)
- J.B.プリツカー(イリノイ州知事)
- ウェス・ムーア(メリーランド州知事)
- ピート・ブティジェッジ(運輸長官)
- ウィリアム・マクレイブン(退役提督)
(圏外)グレッチェン・ウィトマー(ミシガン州知事)
(圏外)ギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事)
(圏外)ロイ・クーパー(ノースカロライナ州知事)
1.ジョシュ・シャピロ(ペンシルバニア州知事)

ペンシルバニア州はバイデン大統領の故郷でもあり、同時に天然ガスの産地だ。51歳のシャピロ氏は2023年から同州で知事を務める。それ以前は同州の司法長官、郡委員、州下院議員を務めた経歴を持つ。
「私はカマラ・ハリスを20年近く知っている。我々はともに検察官として、法の支配の下、国民のために闘い結果を出してきた」(シャピロ氏)
シャピロ知事の下、ペンシルバニア州は、産業汚染除去に向けて、州史上で2番目の規模となる4億ドルの補助金を連邦政府から獲得し、約6000人の雇用を創出した。2050年までに二酸化炭素の大気排出ゼロを目標に掲げ、州の再エネ発電比率を2030年までに30%に引き上げていくという。その計画に従うと、再エネ容量は10倍に増強される。
一方で、カマラ・ハリス副大統領とは異なり、石油掘削時の水圧破砕(「フラッキング」)の禁止には難色を示す。フラッキングとは、石油やガスを抽出するために水と化学薬品を高圧で地下に注入する掘削技術だ。
環境保護団体は、フラッキングは大気と地下水を汚染すると指摘しており、ハリス副大統領はかつてカリフォルニア州で水圧破砕を禁止した。シャピロ氏は2020年の州司法長官時代に、フラッキングの危険性に関する約2年に及ぶ調査を実施した。しかし知事になると、掘削企業に対して使用する化学物質の公表を義務づけたものの、天然ガス会社と提携し、採掘続行を認める新たなプログラムを出して環境保護団体の怒りを買った。
米メディアは、「ペンシルバニア州の多くの有権者にとって、採掘に対する姿勢はそれほど大きな問題ではない。しかし、大統領選挙が僅差で争われるスイングステートのこの州で、ハリス氏がシャピロ氏を民主党の副大統領候補に選べば、民主党への追加票を呼び込むことができるだろう」(ポリティコ)と見る。
日本製鉄によるUSスチール買収については7月30日、全米鉄鋼労働組合(USW)が反発している状態では、賛成できないとの立場を表明している。
2.アンディ・ベッシャー(ケンタッキー州知事)

(c) photo by Dale Greer
ケンタッキー州は石炭生産量で全米第5位の州であり、化石燃料への依存度が高い州だ。2023年には、5つの州が、連邦政府が気候変動対策の計画策定のために用意した資金援助を拒否したが、同州はそのうちの一つだ。
一方で、2021年に策定した「ケンタッキーE3計画」の下では、化石燃料と、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの利用を推進しており、クリーンエネルギー関連での雇用拡大スピードは全米で第2位となっている。
46歳のベッシャー氏は、2019年に州知事に選出され、その前は2015年から州司法長官も務めた。父親のスティーブ・ベッシャー氏も、2007年と2011年に州知事に当選し、2015年まで州知事を務めた。圧倒的に共和党支持者が多い同州で、民主党として不利な状況を親子で打ち破った経歴を持つ。
ケンタッキー州は2021年にはハリケーンに、2022年には大洪水に見舞われたが、ベッシャー氏は災害時の対応で全国的に評価を高めた。ベッシャー氏はクリーン・エネルギー・プロジェクトを歓迎しており、ケンタッキー州を「EVバッテリー生産の首都」と呼ぶ。
3.ティム・ウォルズ(ミネソタ州知事)

ウォルズ氏(60歳)は、2018年に州知事に当選する前は、連邦議会の下院議員を12年間務めた。政治家になる前は20年間、社会科の教師をしていた。ニューヨークタイムズ紙はウォルズ氏を「目立ちたがり屋というよりは仕事人間という印象が強い」と評する。
2020年5月にはミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさん(当時46)が白人警官に首を脚で押さえつけられて死亡した事件が発生した。ウォルズ氏は、大規模な抗議デモに対処するために州兵を派遣した。
気候政策に関しては、ウォルズ氏は、「2030年までにミネソタ州のGHG排出量を50%削減する」という目標を掲げる。
共和党候補のトランプ前大統領について、「分裂的で極端な政策だ。彼らは奇妙な人たちだ」と非難して以来、「奇妙(weird)」という言葉が、拡散されているという。
ミネソタ州では大統領選挙が接戦になることもあるが、有権者は1972年のリチャード・ニクソン以来、共和党の大統領候補を選んでいない。ミネソタ州が激戦州でないとしても、ウォルズ氏をランメイトに加えることで、スイング・ステートであるウィスコンシン州やミシガン州を含む他の中西部上部の有権者に響く可能性があるとの見方もある。
4.マーク・ケリー(アリゾナ州選出上院議員)

60歳のケリー氏はNASAの宇宙飛行士、海軍での戦闘パイロットという異色の経歴を持ち、国内での知名度は抜群だ。2020年から上院議員を務める。
妻のガブリエル(ギャビー)・ギフォーズ元下院議員は2011年、銃撃されたが一命をとりとめた。
アリゾナ州も激戦州だ。ケリー氏は2020年に、1962年以来初めて民主党議員として議席を勝ち取った。2年後も難なく再選された。
ケリー氏は先月、「カマラ・ハリス副大統領は、トランプ氏を破り、私たちの国を未来へと導くのにふさわしい人物だとこれ以上ないほど確信している。彼女を指名候補として私は支持している。ギャビーと私は、彼女を合衆国大統領に選出するために全力を尽くす」と「X」に投稿した。
2022年に、バイデン政権下で施行されたインフレ抑制法(IRA法)の最終ドラフトに、干ばつを緩和するための40億ドルを盛り込むのに尽力した。同じアリゾナ州選出のカーステン・シネマ上院議員(無所属)と共同で、農家が炭素を貯蔵する農業技術を使用した場合に、財政的インセンティブを得られるようにする超党派法案を提出した。米西部地域の水資源や清潔な飲料水へのアクセスに焦点を当てたエネルギー・環境委員会の委員を務める。
5.J.B.プリツカー(イリノイ州知事)

プリツカー氏(59歳)の一族はハイアット・ホテルを興したことで知られ、その資金力もランメイトに有力視される背景だ。イリノイ州知事としては2期目を迎えたが、それ以前は、民主党の資金集めのサークルで活躍していた。
知事1期目の期間中、新型コロナ禍で個人防護服を迅速に配布するようトランプ前大統領に求めて以来、プリツカー氏は舌鋒鋭く前大統領を非難してきた。
「ドナルド・トランプは34回有罪判決を受けた重罪犯で、性的暴行を犯したと宣告され、人種差別主義者で同性愛嫌悪者で女性差別主義者だ。彼は女性の選択権を奪うことを自慢し、何千万人もの人々から医療を取り上げようとしている。中産階級に年間何千ドルもの負担を強いる経済政策を提案し、私たちが大切にしている米国の基本的な理想を脅かしている」(プリツカー氏)。
6.ウェス・ムーア(メリーランド州知事)

45歳のムーア氏は、2023年に、メリーランド州で初の黒人の知事となった。
将来的に大統領候補の可能性も期待される若手のホープだ。
ムーア氏はジョンズ・ホプキンズ大学を卒業後、ローズ奨学生として英オックスフォード大大学院を修了。
米陸軍出身で、貧困問題に取り組むロビン・フッド財団の元最高経営責任者を務めた経験もある。
7.ピート・ブティジェッジ(運輸長官)

42歳のブティジェッジ氏はゲイであることを公表している。
インディアナ州サウスベンド市の元市長の経歴もある。
2020年には、バイデン大統領と、民主党大統領候補の指名を争った。
8.ウィリアム・マクレイブン(退役提督)

マクレイブン氏は、2008年から2011年まで、米統合特殊作戦コマンド(JSOC)の司令官を務め、2011年5月にアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺害した「ネプチューン・スピア作戦」を監督した。2011年からは2014年まで米特殊作戦司令部のトップを務めた。
2019年10月のトランプ政権時には、ニューヨークタイムズ紙に、「わが共和国は大統領から攻撃を受けている」と題する寄稿文を掲載したこともある。
バイデン大統領は、マクレイブン氏を国防長官に起用することも考えていたが、本人は退役四つ星大将を選んだ。
次の3人は、一度は名前が挙がりながらも、現時点でランメイト候補から外れている人物だ。
■グレッチェン・ウィトマー(ミシガン州知事)

ウィトマー氏(52歳)は2019年にミシガン州の知事に就任する前は、同州の下院議員、上院議員を務めた経歴を持つ。
2020年には、新型コロナウイルス対策の制限措置に不満を抱いた極右武装組織「ウルヴァリン・ウォッチメン」が同知事を誘拐する計画を立てたが、FBIが阻止し、逮捕する事件が起きた。
2022年の知事選で勝利して以来、2028年の後継者として目されてきた。今回も、カマラ・ハリス氏ノ「ランメイト」として名が挙がったが、7月29日CBSの朝の番組で、任期満了までミシガン州知事職に専念する予定だと発言している。
■ギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事)

56歳のニューサム氏は、2019年からカリフォルニア州知事を務める。しばしば大統領候補にも取り沙汰されてきたが、ハリス氏のランメイトになるには大きなハードルがある。2人ともカリフォルニア州出身だからだ。
米憲法修正第12条では、選挙人団のメンバーは、大統領と副大統領に投票するが、そのうちの1人は「自分と同じ州の住民であってはならない」と定めている。ハリス氏がニューサム氏をランメイトに選んだ場合、カリフォルニア州54の選挙人団の票をすべて放棄することになる。
このため、ニューサム氏がランメイトになる確率はほぼゼロだ。
■ロイ・クーパー(ノースカロライナ州知事)

2017年からノースカロライナ州知事を務めているクーパー氏(67歳)は当初、ランメイトの筆頭候補の一人だった。
同州は、2030年までにGHG排出量の50%削減と2050年までの大気へのCO2排出ゼロを目標に掲げる。電気自動車(EV)拡大を支持し、クリーンエネルギー移行における環境正義の重要性を強調するクーパー氏だが、7月29日、副大統領候補から身を引くことを発表した。