[CSR] 「ストーリーテリング」から「ストーリードゥーイング」へ――米サステナブル・ブランズ会議最新レポート

例年世界中から2000人以上のエキスパートがカリフォルニア州サンディエゴに集い、ビジネスとサステナビリティの最前線を占うサステナブル・ブランズ会議(SB)。今年も6月2日~5日に開催され、大企業のCEOから今話題の起業家まで、各界のプロフェッショナルが熱い議論を繰り広げた。今年のトレンドを紹介しよう。(カリフォルニア州サクラメント=藤美保代)

■リーバイスのデザイナーが自らプレゼン

デニムを高度なテクニックで着こなした、リーバイスのポール・ディリンジャー氏。ブランドを作り出すクリエイターの立場でのプレゼンが共感を呼んだ
デニムを高度なテクニックで着こなした、リーバイスのポール・ディリンジャー氏。ブランドを作り出すクリエイターの立場でのプレゼンが共感を呼んだ

今年は、自社のこだわりを聴衆にエモーショナルに訴えて、ひときわ大きな拍手を得た企業が2つあった。リーバイスとCVSである。

ジーンズメーカーであるリーバイスは、CSR会議のプレゼンターとして何とデザイナーを登壇させ、「ウェル・スレッド」という、製品のライフサイクルにおいて環境・社会負荷を低減するというプロジェクトを発表した。

彼は一貫してデザイナーとしての自分のこだわり、役割を語った。「私はデザイナーだから、製品が産み出す負荷は、私が作り出したのです」と潔く言い切り、「であればこそ、デザイナーとして、環境や社会に負荷のない素材選びやデザイン、工場選びが、ファッションとしてかっこよく送り出せるように努力していきたい」と訴える。

プロジェクトの数値結果を、CSR担当者がきれいなチャートにして発表することもできたはずであるが、リーバイスがジーンズの会社である以上、会社のこだわりを聴衆に伝えるコミュニケーターとして、デザイナーほどふさわしい人選はないと思えたプレゼンであったし、その思いは、数値を超えて聴衆の心を動かした。

■大手ドラッグストア、タバコの全面販売停止へ [caption id="attachment_13312" align="alignright" width="239"]スクリーンに映し出されたCVSのスライド。「CVSは、永遠に(良いことのために、とのダブルミーニング)タバコをやめます」というシンプルかつダイレクトな宣言が、鮮烈な印象を残す スクリーンに映し出されたCVSのスライド。「CVSは、永遠に(良いことのために、とのダブルミーニング)タバコをやめます」というシンプルかつダイレクトな宣言が、鮮烈な印象を残す[/caption] CVSは、全国展開する大手ドラッグストア。今年、年間2億ドル(約203億円)の売り上げをあげているタバコの全面販売停止に踏み切り、それを大々的に発表した。 プレゼンでは、自社の利益を削ってまで、消費者の健康促進のためにタバコを徹底的に排除した、というストーリーで、「ヘルスケアプロバイダー」としてのブランド差別化と、勇敢な英断のできる企業として消費者・コミュニティからの共感を勝ち取る過程が報告された。 米国ではタバコは大の嫌われ者であり、「反タバコ」は常に広い共感と支援を得る。そのタバコをうまく使い、「営利企業なのに、利益減のリスクを怖れない」という勇ましい企業姿勢を結びつけ、健康の促進という公共の善を大切にする「立派な」企業としての力強いイメージを勝ち取ったといえる。 リーバイスやCVSと同等、あるいはそれ以上の取り組みをしている企業は多くあるであろう。にもかかわらず、彼らのストーリーは聴衆の心にダイレクトに響いた。 自社のこだわりをPRや広告を通して伝える「ストーリーテリング」から、より直接的な行動を通じてオーディエンスに届ける「ストーリードゥーイング」へ、という講演でも議論されたように、企業の根幹をなす価値(リーバイスならジーンズ、CSVならヘルスケアプロバイダー)がサステナビリティと直結し、その思いが実行者本人の口から実感として語られるとき、そこには大きな共感が生まれるのであろう。 CSRにまつわる科学的手法が進化の一途を遂げる一方で、このような「気持ち」に訴えるプレゼンが新鮮に写るのはなぜだろうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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