■数値的な発表は、ほぼ皆無

スコープ3やSECの紛争鉱物報告義務に顕著なように、サプライチェーンをまきこんで行われる各種サステナビリティ系報告への要求は増える一方の昨今。蔓延しつつある「報告書疲れ」への対策として、「競争に影響しない範囲での」競合間の協業、仕組みの統合や標準化、クラウド化についての議論は活発に行われていた。
その一方、「我が社はCO2何%削減を達成」的な数値結果を発表した企業は、ほぼ皆無。「報告」の領域と精度は加速度的にアップしており、その方法論についての議論は盛んなのに、その成果を声高にアピールする企業が少ない。
それどころか、「気持ち」や「こだわり」を全面に押し出したプレゼンに注目が集まる。一見矛盾しているようであるが、実はサステナビリティの成熟の過程の現象とも考えられる。
これまでのCSRでは、成果を報告する対象は、いわば地球や不利益を受けている人々であり、その代弁者であるNGO、専門家、意識の高い消費者や行政などであった。このフェーズにおいては、科学的アプローチにもとづいて達成目標を数値化し、成果をアピールする方法が非常に有効だった。
その結果を受けてさらに取り組みが発展し続ける中、企業にはさらに目標を厳しくしていくことが求められている。しかし、より厳しい目標は、「成績優秀者」であればあるほど、さらなるコスト増としてビジネスにのしかかってくる。
企業は、「サステナビリティ・CSRにさらなる投資をし、成績優秀者となってそれを発表するという手法が、果たして今後も有効であり続けるのか」「実際のところ、売り上げに結びついているのか」といった自問をしながらそれぞれの方向性を探る段階に来たのだ。
それぞれの方向性を探る中で、計測結果の数字そのものよりも、その裏に隠されたこだわりや努力を前面に押し出す「ストーリーテリング、ストーリードゥーイング」が、一つのアプローチとして浮上してきたということであろう。地球やその代弁者たちだけではなく、顧客や自社が属する幅広いコミュニティに対する発信の方法に、真剣に向き合った結果といえる。
■「成績優秀者」から「頼れる生徒会長」に
もう一つのアプローチは、数値での達成よりも、コミュニティのリーダーとしての役割に重きを置く方法である。
進化し続けるCSRの成績優秀者になることの難しさの一つは、指標が難解になるにつれ、一般社会の共感を得るのが難しくなり、人気や尊敬の上乗せに必ずしも直結しなくなることであろう。
であれば、一歩進んで頼れる生徒会長の役割を買って出たほうが、業界、マスコミ、一般社会の共感を得、インフルエンサーとしての立場を確立することができる。

例えばアパレル業界は、生産国での劣悪な労働環境が批判を浴びたため、業界をあげてのサステナビリティ追求の気運が高まり、各種イニシアチブが立ち上がっている。
そんな中、筋金入りのサステナビリティ企業であるパタゴニアは、小売業界の巨人であるウォルマートも名を連ねる、サステナブル・アパレル・コアリションというグループで、積極的にリーダー役を果たしている。