「企業のエシカル通信簿」、トイレタリー業界は花王が首位

記事のポイント


  1. 38の市民団体が共同で第8回「企業のエシカル通信簿」を発表した
  2. 調査対象の業界は毎年変わるが、24年度はトイレタリー業界を評価した
  3. 調査の結果、首位は花王で、ライオン、ロート製薬と続いた(順位はオルタナ算出の合計点による)

38の市民団体から成る「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク」(SSRC)は3月13日、第8回「エシカル通信簿」(2024年度)を発表した。24年度はトイレタリー業界大手9社を調査対象とした。調査の結果、首位は花王で、ライオン、ロート製薬と続いた。(オルタナ総研・金子愛子)

■調査対象は大手トイレタリー9社

「企業のエシカル通信簿」は2016年以来、毎年、異なる業界を選び、環境や人権、フェアトレードなど「企業のエシカル度」を調査し、発表してきた。2024年度は、これまで対象としてこなかった「身近な製品」であり、特に環境問題に密接に関わる「トイレタリー産業」に設定した。

今回、調査対象となったのは、花王、ライオン、サンスター、ロート製薬、クラシエ、サラヤ、I-ne、P&Gジャパン、ユニリーバ・ジャパンの9社。対象は、シャンプー、石けん、ハミガキなどパーソナルケア製品で、医薬品、化粧品、洗剤、生理用品などは調査対象外とした。

2024年度「企業のエシカル通信簿」の調査分野は下記の通りだ。

1.サステナビリティ体制(19)
2.消費者の保護・支援(18)
3.人権・労働(32)
4.社会・社会貢献(16)
5.平和・非暴力(7)
6.アニマルウェルフェア(23)
7.環境(69)

※(数字)は設問数

そのうち環境は、「A環境ガバナンス(18)」「B気候変動(18)」「Cごみ削減(10)」「D生物多様性(9)」「E化学物質(9)」「F水(5)」の6つの中項目ごとに分けて調査した。

■花王は「消費者の保護・支援」で満点

第8回「企業のエシカル通信簿」(2024年度)トイレタリー企業 レイティング

SSRCは上記の項目について、ウェブなどの公開情報をもとに調査を行い、調査票に記入。その調査票を対象企業に送り、修正や加筆などの意見回答を求めた。2回ほどやり取りを重ね、調査の精度を高めた。

SSRCは、あえて総合レイティングを行っていない。消費者、投資家、就活生、取引先などがそれぞれの価値観に従って、企業を評価し選択する情報ツールとして活用してほしい考えからだ。

調査の結果は下記の通りだ。

花王    10,10,7,8,1,2,6 (合計点44)
ライオン  9,9,8,7,2,1,6  (合計点42)

ロート製薬 8,9,8,8,1,3,5  (合計点42)
P&G    9,7,8,4,4,3,4  (合計点39)
サンスター 7,8,5,5,3,2,4  (合計点34)

I-ne     7,6,7,7,1,2,3  (合計点33)
サラヤ   8,7,5,6,1,1,4  (合計点32)
ユニリーバ 6,3,6,2,2,3,4  (合計点26)

クラシエ  2,4,3,3,1,1,2  (合計点16)

※左からサステナビリティ体制、消費者の保護・支援、人権・労働、社会・社会貢献、平和・非暴力、アニマルウェルフェア、環境(合計点はオルタナで集計)

■半数以上がサステナビリティ従業員教育を実施

調査結果の特記事項は下記の通りだ。

[サステナビリティ体制]
・サステナビリティ部門や部署は9社中6社が設置している
・「内部通報しやすい環境整備」はおおむねできているが、取組結果やネガティブ情報の開示について取り組みが少ない
・「マテリアリティ」(重要課題の特定)において、9社のうち5社はステークホルダーの声を聴いている
・サステナビリティの従業員教育は9社のうち5社が実施していた
・サプライチェーンの基準違反の事例について、9社のうち2社は、社外からの指摘などの情報収集をしている
・ステークホルダーエンゲージメントの結果については、9社中6社は商品等に反映している

[消費者の保護・支援]
・ほとんどの企業が基本的方針をもち公表しているが、消費者の権利や説明責任等の内容に触れている企業は9社中5社だった
・消費者の保護・支援について全ての従業員に研修を実施しているのは9社中2社だった
・グリーンウォッシュ等の基準を持ち改善しているのは9社中4社だった
・苦情等の声に基づき9社中8社が改善をしていたが、改善結果の開示は9社中6社にとどまった。

[人権・労働]
・人権デュー・ディリジェンス(DD)の策定・実施をし、いかに日常業務に組み込むかが問われている
・人権尊重の姿勢はどの企業にも見られ、5社が「7」以上を獲得
・人権DDの全プロセスを実施しているのは、花王、ライオン、I-neの3社
・子育てサポート企業「くるみん」認定は6社(花王、ライオン、ロート製薬、サラヤ、P&G、ユニリーバ)
・事業所内に託児所を設置しているのは、ロート製薬、サラヤ、P&Gの3社で、授乳・搾乳室を設置しているのは、ライオン、P&Gの2社
・LGBTQ+への何らかの取り組みは6社が実施。うち4社(ロート製薬、I-ne、P&G、ユニリーバ)は、「同性パートナーを異性配偶者と同等に扱う」などの規定がある
・労働組合員に対するハラスメントの禁止を開示しているのはロート製薬のみで、社内規定にあっても非公開が多かった。
・サプライチェーンにおける、無賃残業が行われない仕組みの要請はライオンのみ。賃金未払い防止・不当な天引きの禁止の要請はユニリーバのみだった。
・人権基準を持つRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)を採用する企業が大半だ

■アニマルウェルフェアは最高得点でも「3」

[社会・社会貢献]
・ロート製薬は東日本大震災で親を亡くした子どもたちに高校卒業後の学業支援を行う「みちのく基金」を継続して実施。サラヤは2010年からウガンダで手洗い設備の普及や教育啓発を行う「100万人の手洗いプロジェクト」を実施。ライオンは、ボランティア活動支援として会社とは関係ないボランティア活動にも、申請に基づいて交通費等を支給している
・次世代(子ども)育成分野は9社全てが取り組みをしていた
・M&A等投資をする際のサステナブル基準の導入は1社も取り組みがなかった
・活動をしていてもサイト等で公開がされておらず加点できないケースがあった

[平和・非暴力]
・平和・非暴力に関する方針や計画を持つ社は無かった
・紛争地域に関わる調達方針は4社、うち1社は紛争木材に言及していた
※紛争木材:森林認証制度The Sustainable Forestry Initiative (SFI)と森林認証承認プログラム(PEFC)では、ロシアによるウクライナ侵攻がベラルーシの支援を受けてロシアから始まっていることを踏まえ、ロシアとベラルーシ産のすべての繊維を紛争木材として分類している
・欧米での市民・ NGOによる企業レイティングは、平和のテーマから始まった。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ地区侵攻では、日本企業も緊急の対応を迫られた
 
[アニマルウェルフェア]
・獲得点数が高いのはロート製薬の「3」で、クラシエ、サラヤはほぼ方針がない状態だった
・トイレタリー製品企業に対するアニマルウェルフェアの関心事項は、「動物実験」と「動物由来成分」が中心である
・動物実験については、削減と行う場合の制限が求められるが、化粧品(薬用含む)につい
ての方針はあるが、それ以外については方針がない傾向だ
・動物実験には3Rsが求められる。①Replacement:生きた動物を使わない方法に置換、②Reduction:実験に使う動物の数を減らす、③Refinement:実験方法を改善することで動物たちの苦痛を軽減する
・動物性由来成分は、飼育方法と削減が重要だが、トレーサビリティも行われておらず、把握も改善も進んでいない傾向だ
・トレーサビリティの努力をしているのはP&G、植物性の石鹸素地を使用することを明言するのはサラヤ

■4社が2040年までの早期ネット・ゼロ達成を目指す

[環境]
環境ガバナンス
・環境コミュニケーションについては、CSR担当部署は6社、専任担当役員はうち3社に確認ができた。報告書は全社が作成しており、中でも花王はサステナビリティ報告書とは別に環境報告書も作成していた
・EMS(環境マネジメントシステム)の構築が明らかだったのは4社のみで、運用の公表が不明な企業が7社あった。EMSの要求事項とは別に環境教育を行っていたのは花王とI-neのみだった

気候変動
・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同は6社だった。2050年ネット・ゼロ実現の方針は6社で、うち4社が2040年までの早期の達成を目指している
・100%再エネ電気に切り替える施策・目標年・現状割合の公表は8社だが、脱原発・脱石炭の方針は0社だった。

ごみ削減
・環境方針等に7社が省資源、ごみ削減を明記。全社が、プラスチックごみの削減を重要課題と認識し、削減方針・目標・計画を公表している
・容器包装の具体的な削減の取組みとして、詰替え製品への移行に全9社、使い捨て品の削減、簡素化、軽量化、プラスチック以外の素材への切替えに8社、使用後に再資源化し易い製品の開発に7社が取り組んでいた。ユニリーバは、販売後の容器回収の積極的な取組みを展開

生物多様性
・自社利用の土地や建物における生物多様性保全は、7社で取り組みがあった
・サプライチェーンにおける生物多様性への配慮は、全社で取り組みがあったが、RSPO
のメンバーになっていても未だ購入実績がない場合がある
・マイクロビーズは、どこの企業も撤廃が進んでいる。紫外線吸収剤や界面活性剤は、一部の企業で水質調査や開発などが積極的に取り組まれている
・TNFDの開示は1社のみ、開示予定は2社

化学物質
・化学物質の削減の計画、方針、取組みはほとんどの企業で行われており、その管理体制も同様に行われている
・化学物質の削減の取組みについて、「独自により厳しい基準を設け人体や環境に有害な物質を削減または使用を中止」等に取り組む企業は、花王、ライオン、P&G、 I-ne、 ロート製薬の5社
・化学物質の使用状況の情報公開について、1社を除いて取り組んでいた。花王、P&G、ライオンが、消費者に分かりやすい表現をしている


・水リスクは8割以上達成している企業が5社であり、4社は1割以下と企業間で差が大きかった
・水使用量の削減に関しては、全企業が情報公開を行っており、7社が具体的な取り組みを実施している。
・原水保全や水資源確保のための取り組みについてはどの企業においても不十分であり、改善が期待される。

キーワード: #エシカル消費

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