サラヤ: 対馬発の循環経済、世界に示したい

記事のポイント


  1. 長崎県対馬市は、海洋ごみが漂着する地域として知られている
  2. この深刻な課題に対処するため、サラヤが新会社が立ち上げた
  3. 漂着ごみの再資源化や回収の効率化、発生抑制を進める

長崎県対馬市は、日本で最も多くの海洋ごみが漂着する地域として知られている。この深刻な課題に対処するため、サラヤ(大阪市)が立ち上げた新会社がブルーオーシャン対馬(対馬市)だ。川口幹子社長は、漂着ごみの再資源化や回収の効率化、発生抑制といった3つのイノベーションを進める。

川口幹子(かわぐち・もとこ)
ブルーオーシャン対馬社長。青森県出身。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了。地域おこし協力隊員として、2011年に対馬市に移住。一般社団法人対馬里山繋営塾代表理事。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。2024年1月から現職。

――対馬は、日本で最も多くの海洋ごみが漂着する地域として知られています。日本でも海洋プラスチックごみ問題の認識が広まり、脱プラスチックの動きが少しずつ進んでいますが、対馬の状況は改善しているのでしょうか。

対馬は、日本と朝鮮半島の間に位置する対馬海峡に浮かぶ島です。対馬海流や季節風の影響を受け、大量の海洋ごみが漂着し、その量は年間3ー4万立方メートルにも上ります。

対馬市は年間約2.8億円の予算を掛けて回収・処理を行っていますが、回収量は全体の4分の1程度にとどまっています。

私自身の肌感覚としても、残念ながら海がきれいになったとは感じられません。どれだけごみを回収しても、翌日にはまた大量のごみが海岸に打ち寄せられてしまいます。

海洋ごみ問題の認知度は高まっていますが、実際の課題解決にはまだ大きな壁があるのが現状です。

■再資源化進めごみゼロの島へ

対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い
対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い

――ブルーオーシャン対馬は、サラヤの関連会社として2024年1月に設立されました。海ごみ問題を解決するために、どのような取り組みをしていますか。

長期的なビジョンとしては、対馬を起点にしたサーキュラーエコノミー(循環経済)のモデルを作り、それを国内外に発信していくことを目指しています。具体的には、3つのイノベーションに取り組んでいます。

1つ目は「再資源化のイノベーション」です。

対馬市は22年6月、ごみの無い美しい島を目指そうと「ごみゼロアイランド対馬宣言」を採択しました。私たちも、漂着ごみだけでなく、島内で発生したすべての廃棄物を資源として循環させることを目標としています。

対馬の海岸には、漁業で使用される発泡スチロール(ポリスチレン)が大量に漂着します。これを溶かして固形化し、資源業者に買い取ってもらうことで、リサイクルを進めています。

さらに、「加炭剤」の製造に向けた準備も進めています。加炭剤とは、プラスチックに圧力をかけて加工したもので、燃料や鉄鋼製造時の還元剤として利用されます。この取り組みが実現すれば、ごみの再資源化率が大幅に増加するだけでなく、分別の手間も削減されます。

2つ目は「漂着ごみの回収イノベーション」です。現在、サラヤのグループ会社サラヤメディテック社と連携し、接岸できる重機導入船の開発を進めています。

対馬市は、地元の漁業組合などと協力して回収を行っていますが、漁業者が減少していることもあり、回収が追いついていないのです。

現在設計中の重機を搭載した船が完成すれば、これまで10人がかりで行っていた作業を1人で担えるようになり、大幅に回収作業を効率化できます。

3つ目は「発生抑制のイノベーション」です。回収したプラスチックを再利用するだけでは、海洋ごみ問題の根本的な解決にはなりません。そもそもプラスチックが海に流出しないようにすることが、最も重要です。

私たちは、海ごみ問題への理解を深めてもらうために、スタディツアーを企画し、企業の視察を積極的に受け入れています。

――視察した企業からは、どのような反応がありましたか。

例えば、アスクルは21年に対馬市と「SDGs連携協定」を締結しました。この協定は、サーキュラーエコノミーの推進や海洋プラスチックごみ対策を目的としています。

その一環として、社員が対馬の環境課題を学ぶ「対馬スタディツアー」を実施したり、商品の売上の一部を海ごみの回収・処理活動に寄付したりしています。

さらに、アスクルの取引先企業にも対馬のスタディツアーを紹介し、ウェブサイトでも積極的に情報を発信してくれています。このような企業ならではの取り組みが広がることは、私たちにとっても非常に心強いです。

■課題先進地から解決策生み出す

対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い
対馬の海岸には、大量のごみが漂着する。足場が悪く、回収が困難な場所も多い

――25年国際博覧会(大阪・関西万博)では、対馬の海ごみ問題に関する展示をされるそうですね。

対馬での研究成果を踏まえ、世界に向けて「対馬モデル」を発信する予定です。対馬は、まさに海ごみ問題の震源地とも言える場所です。世界中で同じような問題を抱えています。

大量のごみが漂着する現状、その要因、解決に向けた取り組みを国内外に発信していくことが重要だと考えています。

私たちが強調したいのは、「対馬が困っているから助けてほしい」ということではありません。

対馬は歴史的に、国境の島として、多くの技術や文化、思想を日本に伝えてきました。かつて、さまざまな「日本の当たり前」が対馬を経由して広まったように、海ごみ問題の解決策を生み出し、それを世界に広めたいと考えています。

私たちが目指すのは、対馬で生まれた解決策が、次の時代の「当たり前」になることです。万博を通じて、「対馬でできることは、他の地域でもできる」というメッセージを発信することが、私たちの大きな目標です。

「大都市だからできる」「資金があるからできる」といった言い訳は、もはや通用しません。限られた環境でも課題解決が可能だと、証明したいのです。特に、海洋ごみの排出が多い東南アジアなどの地域に向けて、対馬での取り組みを示すことは、大きな意義があります。

対馬のような小さな島の取り組みが、世界の人々に「自分たちにもできる」と思ってもらうきっかけになることを願っています。

【5-6月にSARAYA ウィーク海洋保全について学べるパビリオン

サラヤは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博) で、特定非営利活動法人ゼリ・ジャパンのパビリオン「BLUE OCEAN DOME」(ブルーオーシャン・ドーム)を支援している。来館者が楽しみながら海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護について学べるパビリオンだ。サラヤは5月26日から6月1日を「SARAYA ウィーク」として、パビリオン内ドームCで、サラヤの次世代の海洋保全やサスティナビリティへの取り組みを含めた展示を行う。

(PR)サラヤ

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。