オムニバス法案は欧州のサステナ政策の後退ではない

記事のポイント


  1. CSDDDやCSRDなどEUのサステナビリティ規制が大幅に簡素化へ
  2. だが、EUの本当の狙いは企業のイノベーションの促進にある
  3. サステナ政策の後退ではなく、サステナ経営推進の機会である

欧州では、「EU競争力コンパス」や「オムニバス簡素化パッケージ(オムニバス法案)」が出され、サステナビリティ規制が大幅に緩和される見通しです。しかし、これはEUのサステナビリティ政策の後退ではありません。社会の持続可能性と経済成長の両立を実現するための戦略的な取組と捉えるべきです。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

欧州委員会は1月29日、EUの競争力強化に向けた今後5年間の新成長戦略「EU競争力コンパス」を発表しました。これは米国や中国の影響力が拡大する中で、EUが国際競争力を強化し、戦略的な自立性を確立するための道筋を示す羅針盤(コンパス)として位置付けられます。

EU競争力コンパスは「ドラギレポート」などを土台にして策定されました。ドラギレポートは、EUの競争力低下という深刻な課題に対処するため、欧州委員会がその解決策を探るべく、欧州中央銀行総裁やイタリア首相を務めたマリオ・ドラギ氏に作成を依頼したものです。2024年9月、欧州委員会に提出されました。

本レポートでは、EU経済の競争力強化、単一市場の進化と統合、持続可能な成長と気候変動対策、財政政策と投資の改革、労働市場と教育改革など、多岐にわたる提言がなされています。

競争力コンパスは「脱炭素と競争力」などを軸に

EU競争力コンパスは、次の3つの柱(中核的行動分野)と5つの横断的支援策から構成されています。

  1. イノベーション促進と生産性向上
    欧州内のイノベーションギャップを解消し、生産性を向上させる(AIや量子技術、バイオテクノロジー、ロボティクスなど先端技術の普及、スタートアップや成長企業の支援、企業法制の統一による障壁の解消など)。
  2. 脱炭素化と競争力の両立
    欧州グリーンディール(2050年までに温室効果ガスの実質排出量をゼロにし、気候中立な社会を実現するための包括的戦略)の目標を維持しながら、産業競争力を確保する。
  3. 依存リスクの低減と安全保障の強化
    エネルギーや原材料などの外部依存を軽減し、経済安全保障を強化する(サプライチェーンの多角化や共同調達、戦略的パートナーシップの推進など)。

これらの柱を支えるため、以下の5つの横断的支援策が展開されます。

  1. 規制の簡素化
    広範で複雑な行政手続きやサステナビリティ規制などによる企業の負担を大幅に削減する。
  2. 単一市場の障壁撤廃
    EU内の経済的障壁を取り除き、国境を越えたスムーズな取引と市場統合を実現する。
  3. 資本市場の活性化
    欧州全体の投資や貯蓄を効率的に活用できる仕組み(例:欧州貯蓄・投資連合)の創設など、成長に必要な資金調達環境を整える。
  4. スキル向上と雇用促進
    「スキル連合(Union of Skills)」(EU全体の人的資本を強化するための戦略的取組)などを通じ、将来必要なデジタルや専門スキルの育成、高品質な雇用機会の創出を推進する。
  5. 政策調整の強化
    EU全体および加盟国間での施策や改革の調整を一元化し、一貫性のある実行体制を確立するための仕組みを導入する。

欧州委員長「これまでにない簡素化を目指す」
EUの狙いは企業のイノベーションの促進にあり
混迷する時代において日本企業が取るべき進路は

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。