記事のポイント
- 米国で反ESGが席巻する中、「日本企業にとってはチャンスになる」と専門家
- 米企業が足踏みしている間、日本企業はESGの取り組みを深めることができる
- 日本企業の課題は、サステナビリティ推進体制の構築やトップの認識、DXに
ESG情報の開示支援を行うBooost(ブースト、東京・品川)は4月15日、サステナビリティ経営についてのカンファレンスを開いた。登壇した元GPIFの水野弘道氏は、「米国が足踏みしている今こそ、日本企業にとってはESGの取り組みを進め、価値創造につなげるチャンスでもある」と指摘した。日本企業の課題には、サステナビリティ推進体制の構築やトップの認識、DXなどが挙がった。(オルタナ編集部=松田 大輔)

カンファレンスのテーマの一つは、サステナビリティ情報の開示動向だ。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は2025年3月、サステナビリティ関連財務情報の開示基準を公表した。日本企業には今後、サステナビリティ情報の開示が本格的に求められることになる。
■米国の反ESG、日本企業のチャンスに
その一方で、米国では反ESGの動きが加速している。登壇した元GPIF理事兼最高投資責任者で、グッドスチュワードパートナーズ合同会社(東京・千代田)の水野弘道CEOは、「トランプ政権の誕生がESGの逆風になっているのは確かだ。気候変動問題を解決するために、グローバルな議論の場に米国がいないのは、気候変動のリスクを高めることになる」と語った。
しかし、日本企業にとってはチャンスになるとも指摘した。
「米国では、『行き過ぎている』として、保守層を中心にESGやDEIへの反発が強まった。一方、日本では、気候変動対策やDEIの取り組みは発展途上だ。気候変動のリスクは確実に存在し、そこに対応する製品やサービスを提供できれば、企業の成長につながる。米国が足踏みしている今こそ、日本企業にとってはESGの取り組みを進め、価値創造につなげるチャンスでもある」(水野CEO)
■「なぜESG投資を始めたのか問い直す」

それに加えて、投資家の姿勢に言及した。水野CEOは、「投資家がすべきことは、なぜESG投資を始めたのか、もう一度思い出すことだ。気候変動は企業のリスクだ。ビジネスのリスクであれば、投資家も対応するのが筋だ」とした。
「気候変動のリスクは高まっている。であれば、本来的にはリスクに対応するために、サステナブルな投資はもっと増やさなければならないはずだ。ESGのトレンドが変わったからやめるという企業もあるかもしれない。しかし、ESGの原点に立ち返れば、やめるどころかさらに進めるべきだ」(水野CEO)
■サステナ体制構築やDXが課題に
日本企業のサステナビリティ推進には課題もある。ブーストの青井宏憲社長は、「サステナビリティ情報の開示に向けて十分に準備できている企業は少ない」と指摘する。特に課題に挙げたのは、サステナビリティ推進体制の構築やトップの認識、DX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。
「有価証券報告書にサステナビリティ情報を記載することは、任意開示とは重みが異なる。サステナビリティ推進部署から取締役マターになり、経理部が管掌部門となる。正確性や網羅性が問われるが、その認識が企業側に足りていない」(青井代表)
青井代表は、「これまでの延長で考えてはいけない。サステナビリティを経営戦略に統合する必要がある」と言い切る。そのために、トップが課題を認識し、体制を構築できるかどうかが大きな分岐点になるとした。
企業にはサステナビリティ推進部署だけでなく、タスクフォースやワーキンググループなどの設置も求められると指摘。それに加えて、収集したESG情報を適切に管理し、企業価値の創出のために活用するには、DXの推進が欠かせないとした。
カンファレンスではこのほか、サステナビリティ開示に詳しい公認会計士の森洋一氏の開示動向に関する講演や、EY Japan(EYジャパン、東京・千代田)でESG経営を推進する牛島慶一氏をモデレーター(進行役)に迎えたトークセッションが行われた。