記事のポイント
- GHG算定制度は、「SHK制度」と世界基準の「GHGプロトコル」で差異がある
- ダブルスタンダードを超え、開示でリーダーシップを発揮するには何が必要か
- 情報開示の「過渡期」では、企業はプロアクティブに取り組む姿勢が問われる
企業が温室効果ガスの排出量を算定・開示する際、国内の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度」と、国際的な基準である「GHGプロトコル」の狭間には様々な差異がある。ダブルスタンダードを超え、情報開示でリーダーシップを発揮するには何が必要か。情報開示の潮流変化における「過渡期」では、企業はプロアクティブ(先駆的)に取り組む姿勢が問われる。(GHG削減サポーター・園田 隆克)
■苦悩する企業のSHK担当者たち
SHK制度を担当する現場では、グローバルなルールとの間にある「ダブルスタンダード」に多くの実務担当者は頭を抱えているのではないだろうか。気候変動対策から生物多様性、人的資本まで拡大するサステナビリティ情報開示の要求は、もはや任意の取り組みではなく、有価証券報告書への記載義務化など法定開示へと不可逆的に進行している実情もある。
国内法に基づくSHK制度とグローバルスタンダードであるGHGプロトコルの間に横たわる溝をどう埋めるか―。この課題は、企業のサステナビリティ戦略全体を左右する重要テーマへと発展する可能性を孕んでいる。
■ダブルスタンダードの実態とは
SHK制度とGHGプロトコルの決定的な違いは、前者が国内法に基づく義務的な制度である一方、後者は事業者が任意で参照するデファクトスタンダードという点だ。
この根本的な位置づけの違いから、算定対象範囲や算定方法、排出係数の扱い、証書・クレジットの考え方まで、多岐にわたる差異が生じている。
例えば電力の使用による排出量の算定では、SHK制度が電気事業者別の排出係数(マーケットベース方式に相当)を採用するのに対し、GHGプロトコルではマーケットベース方式に加え、特定地域の平均的な排出係数を用いるロケーションベース方式での算定も要求される。非化石証書の扱いについても両者の間に解釈の違いがある*1)。
こうした相違点により、多くの企業は二重の作業や異なるデータセットの管理を強いられ、膨大な業務負担を抱えているのが実態であろう。
(この続きは)
■グローバル整合への道のりを追う
■グローバルな基準間連携が進む
■「合理的で裏付け可能な情報」が重要に
■情報開示の波に乗るための3つの提言
■「過渡期」を乗り越え、先駆者となるために