記事のポイント
- ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が4月21日、88歳で死去した
- ローマ教皇は、世界に約13億人いるカトリック教徒の精神的指導者で、最高位の聖職者だ
- フランシスコ教皇は、一貫して、環境保護を訴えてきたことでも知られる
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が4月21日、88歳で死去した。教皇とは、ローマ・カトリック教会の最高位聖職者の称号であり、世界に約13億人いると言われるカトリック教徒の精神的指導者として、大きな影響力を持つ。フランシスコ教皇は、一貫して環境保護を訴えてきた「気候教皇」としても知られる。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は、本名をホルヘ・マリオ・ベルゴリオという。
2013年、南米出身者として初めて教皇に選出されると、13世紀のイタリア・アッシジを生きた聖フランチェスコ(1182-1226)にちなんで、教皇名にフランシスコを選んだ。聖フランチェスコは、自然を愛し、弱者や貧しい人に対する慈悲の心を向けたことで知られる聖人だ。
■教皇の言葉はパリ協定の採択にも影響した
フランシスコ教皇は、一貫して環境保護を呼びかけてきた。
なかでも最も影響力があったと言われるのが、2015年に発表した回勅『ラウダート・シ』だ。回勅とは、教皇が司教たちに送る指針を書いた書簡を指す。
国連気候変動サミット開催直前に発表した184ページにも及ぶこの回勅の中で、フランシスコ教皇は気候変動を「環境、社会、経済、政治、そして物資の分配に重大な影響を及ぼす地球規模の問題」と捉え、気候変動と社会正義が相互に結びついた課題だと主張した。
また、気候変動が世界の最貧層に与える不均衡な影響に注目し、この現実をもたらす経済構造を批判した。
パリ協定を採択した歴史的な気候サミットに集まった多くの気候リーダーらが、教皇の言葉が響いたと話す。ジョン・ケリー元米国気候特使は、「教皇の持つ強力な言葉が行動を促した」と米タイムズ紙にコメントした。
回勅を受け、カトリックの環境活動家たちは、世界中のカトリック信者に環境問題に対処するための行動を促す「ラウダート・シ運動」を展開した。その運動は、単なる啓発プログラムにとどまらず、ダイベストメント(投資の引き揚げ)のような行動を促す取り組みにも広がった。
■多くの気候リーダーや環境活動家らが謁見
グローバルな気候変動会議の過密なスケジュールの中で、多くの気候リーダーらが、訪問先にバチカンを含め教皇への謁見を組み入れるようになった。
スウェーデンの環境活動家の、グレタ・トゥンベリさんも教皇に謁見した一人だ。
2018年にはフランシスコ教皇は、エクソンモービル、BP、シェルなどの石油メジャーの経営者を招き、気候変動の緊急性について議論する非公開の会合を開催した。会合の後、地球温暖化対策の重要性を認める声明を出す経営者も出た。
2019年には、環境破壊行為を指す「エコサイド」(「エコ」と「ジェノサイド(大量虐殺)」を組み合わせた言葉)を、平和に対する犯罪と呼んだ。
なお、2019年11月には、ローマ教皇として38年ぶりに来日し、長崎と広島で核兵器廃絶を訴えたほか、東京ドームでは5万人のカトリック信者を前に大規模なミサを行った。
2023年には、気候危機への対応をめぐって抵抗と混乱が続いていることを非難する声明を出している。15ページに及ぶ声明文には、「気候変動の兆しはすでに存在しており、ますます明白になっている」と記した。
2023年にドバイで開かれたCOP28では、健康状態の悪化のため現地には赴けなかったものの、バチカンから、「緊急性、慈愛、決意を持って行動する必要がある。なぜなら、かけがえのないものが失われつつあるからだ」と演説し、環境破壊を「構造的な罪」だと断じた。
■同性カップルの権利保護も
環境保護以外でも、同性カップルの権利を法的に保護する必要性を訴えた。
フランシスコ教皇の視線は常に、貧困層や苦しむ弱者に寄り添うものだった。
フランシスコ教皇の後継者は今後、コンクラーベと呼ばれる教皇選挙で選出される。
米タイムズ紙は、「多くの後継者候補は気候変動への関心が低く、かつてフランシスコ教皇を称賛した政治指導者の多くも、今では、教皇の功績を理解しないポピュリストらに置き換えられている」と論じた。