記事のポイント
- タイ・パタヤで3月中旬、アジア最大規模の広告祭が開催された
- テクノロジー、カルチャー、アイデアの「衝突」から次の広告が生まれる
- 同広告祭からSDGsコミュニケーションのこれからを読み解く
アジア最大の広告祭「アドフェスト」が、2025年3月20日から22日にかけてタイ・パタヤで開催された。テーマは「COLLiDE」。テクノロジー、カルチャー、アイデアが激しく交差し合う時代、その衝突から生まれる「創造的カオス」が次のクリエイティブを定義していくというメッセージが込められている。創造と混沌がせめぎ合うこの舞台から、SDGsコミュニケーションのこれからを読み解く。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)
■視覚障がいを「見える化」するVISIONGRAM

世界には2億人以上の視覚障がい者が存在する。だが、視覚障がいの原因は多岐にわたり、その見え方も人によってまったく異なる。
たとえ家族であっても、本人がどのように世界を見ているのかを正確に理解することは難しい。加えて、当事者自身が自分の見え方を言葉で説明するのも非常に困難である。「見えない世界」を見える化することで、障がいの有無を問わず、相互理解の架け橋を築く。
その想いから誕生したのが、世界初のインクルーシブ技術「VISIONGRAM」である。日本代表のパラアスリートが持つ膨大かつ詳細な視覚検査データを分析し、独自の視覚再現アルゴリズムを開発した。
複雑な視覚パラメータを「ドット」として変換・統合することで、見え方を直感的にビジュアライズする技術に成功した。また、脳波データを応用する研究も進行し、より個別性の高い見え方の再現を目指している。
誰でも自分の視力検査データを入力するだけで、オリジナルのVISIONGRAMを生成できるシステムを構築。QRコードやリンクで簡単に共有でき、他者がその「見え方」を体験することが可能になった。
VISIONGRAMはすでに医療機関や盲学校をはじめとする多様な現場で導入されている。医師は患者に視覚状況を可視化して伝えられるようになり、教育現場では教師が生徒の見え方を理解し、支援方法を改善する手がかりになっている。
VISIONGRAMは単なるテクノロジーではない。それは、見えない壁を越え、共に世界を理解するための「新しい共通言語」である。
■音で世界を「視る」新たなゲーミング体験も

ゲームは世代を問わず人気の高いエンターテインメントであるにもかかわらず、視覚障がい者が安心してプレイできる環境はこれまで整ってこなかった。
特に人気タイトルの多くは視覚情報への依存度が高く、「選択肢がほとんどない」と多くの当事者が声を上げていた。そんな状況の中、オーディオのリーディングブランドであるJBLが立ち上がった。
ゲーミング市場では後発だったが、独自の空間オーディオとヘッドトラッキング技術を駆使し、「音で世界を捉える」まったく新しいゲーム体験を構築。2年にわたる視覚障がい者との共同研究を通じて、ゲーム内の敵の位置や地形、動きまでも音で感じ取れる設計を実現し、かつて諦めていたゲーミングライフを取り戻す道を切り開いた。
JBLのゲーミングシリーズQUANTUMは、当初市場での認知度は高くなかったが、この取り組みによって、テクノロジーの力で“誰もが楽しめるゲーム”を実現するブランドとしての立ち位置を確立しつつある。
今回は、視覚障がい者という特定の課題に対して、テクノロジーとクリエイティビティがどう寄りそえるかを見てきた。見えない世界を「見える化」する挑戦は、単なる表現の進化にとどまらず、社会との接続方法そのものを問い直すものだった。
アドフェストという国際的な舞台からは、今後も多様な社会課題へのアプローチが生まれつづけるだろう。次回も引き続き、アドフェストにおけるSDGs関連の受賞作品を取り上げながら、その可能性を掘り下げていく。